オフィスビルや商業施設の空調設備を検討する際には、「個別空調方式」と「セントラル空調方式」のいずれかを選択する必要があります。建物の規模や用途によって適した空調方式は異なるため、それぞれの特徴を理解することが重要です。
この記事では、個別空調方式の概要を紹介したうえで、セントラル空調方式との違いについても解説します。メリット・デメリットの比較表も掲載しているので、選定の際の参考にしてください。
\空調・換気設備設計の手間を"無料"で削減/
目次
■この記事でわかること
- 個別空調方式の特徴と適用事例
- セントラル空調方式との主な違い
- それぞれの方式のメリット・デメリットと選定のポイント
個別空調方式とは
個別空調方式の仕組みや、セントラル空調方式との違いを解説します。
部屋やフロアごとに空調設備を設置する方式
個別空調方式は、部屋やフロアごとに独立して空調設備を設置・管理するシステムで、「パッケージ方式」とも呼ばれます。運転のオンオフ、冷暖房の切り替え、温度設定、風量の変更といった操作を、各部屋からユーザー自身で行えます。
一般住宅に設置されるルームエアコン、食堂やオフィスなどの小~中規模施設に設置されるオフィス店舗用パッケージエアコン、ビルや大型施設など大規模施設に設置されるビル用マルチエアコンなどが代表例です。
セントラル空調方式との違い
セントラル空調方式は、建物全体の空調を一箇所でまとめて管理するシステムです。
冷凍機・ボイラーといった熱源機を、機械室や管理室に集約し、まとめて空調を管理します。そのため、個別空調方式のようにユーザー側から空調の設定を変えることはできません。
例えば、空気調和機が複数設置されているフロアであっても、窓際の空気調和機と中央に設置された空気調和機とで、温度や風量を変えることはできません。
ただし、「FCU(ファンコイルユニット)」「エアハンドリングユニット(AHU)」「バリアブルエアボリューム(VAV)」といった機器を用いれば、部屋やフロア、ゾーン単位で、温度や風量の調整を行えます。
オフィスビルや商業施設といった、大規模な建物に適しています。
\空調・換気設備設計の手間を"無料"で削減/
個別空調方式とセントラル空調方式のメリット・デメリット比較
個別空調方式とセントラル空調方式は、それぞれにメリット・デメリットがあります。建物の規模や用途によって最適な方式は異なるため、それぞれの特徴を十分に理解したうえで選定することが重要です。
個別空調方式 |
セントラル空調方式 |
|
メリット |
・部屋やフロアごとの用途などに適した運転・設定が可能 ・未使用の場所は停止できるため、電気料金のムダをなくせる ・システムが独立しているため故障の影響が限定的 ・増築やレイアウトの変更などに応じて、空調機の追加などの対応がしやすい ・パッケージ化されているので、一からシステムを選定する必要がなく設計が容易 |
・建物全体の温度を均一に保てる ・静音性に優れている ・個々の機器を設置するスペースが不要 ・メンテナンスコストを抑えられる |
デメリット |
・部屋やフロアごとに設置スペースを確保する必要がある ・システムが独立しているため、個別にメンテナンスを行う必要があり、メンテナンスコストがかかりやすい ・冷媒のため配管の長さや高低差に制限があり、設計の自由度が劣る |
・設計の工数がかかりやすい ・システムによっては細かな運転・設定ができない ・故障すると建物全体に影響を与える可能性がある ・故障した場合の修理費が高くなりやすい ・レイアウトの変更などフレキシブルな対応が難しい |
以下では、各方式のメリット・デメリットを詳しく解説し、それぞれの方式がどのようなケースで適しているのかを説明します。
個別空調方式のメリット・デメリット
個別空調方式の主なメリットとしては、以下が挙げられます。
■メリット
- 部屋やフロアごとの用途などに適した運転・設定が可能
- 使っていない場所は停止できるため電気料金のムダをなくせる
- システムが独立しているため故障の影響が限定的
- 増築やレイアウトの変更などに応じて、空調機の追加などの対応がしやすい
- パッケージ化されているので、一からシステムを選定する必要がなく設計が容易
個別空調方式の最大のメリットは、セントラル空調方式とは異なり、ユーザーが運転のオンオフや設定の変更を自在にコントロールできる点です。
例えば、使用しない部屋の空調をオフにすることでエネルギー消費を抑えたり、部屋ごとに快適だと感じる温度や風量に設定することが可能です。
なお、1台の室外ユニットで複数の室内機を運転できるエアコン(マルチタイプのルームエアコン、オフィス・店舗用パッケージエアコン、ビル用マルチエアコン)には、室内機が同時運転するタイプと、個別運転するタイプがあります。
同時運転はそのフロア全体で運転・設定を行うので、仕切りのないフロアにおすすめです。
一方で、壁で区切られた部屋があるオフィスや、部屋ごとに在室・在籍時間が異なる建物では、個別運転タイプが適しています。
■デメリット
- 部屋やフロアごとに設置スペースを確保する必要がある
- システムが独立しているため個別にメンテナンスを行う必要があり、メンテナンスコストがかかりやすい
- 冷媒のため配管の長さや高低差に制限があり、設計の自由度が劣る
個別空調は、セントラル空調方式と比べて設計の自由度で劣ります。しかし、パナソニックの「ビル用マルチエアコン(UXPR5Y)」は総配管長が1,000mと業界最長を誇り、設計の制約を大幅に緩和しています。1システムで14階相当のビルに対応可能であり、中間層に室外ユニットを設置すれば、超高層ビルにも対応可能です。
このように、設計の自由度を確保しながら、個別空調方式のメリットである柔軟な運転制御や快適性を最大限に活用できるシステムもあります。
メリットとデメリットを踏まえると、以下のような建物・ケースでは個別空調方式が適しているでしょう。
- 規模が小さい建物
- ホテル
- テナントビル
- 部屋やフロアごとに使用する曜日や時間帯が異なる
- 部屋やフロアごとに、きめ細やかな温度設定や風量調整が必要
セントラル空調方式のメリット・デメリット
セントラル空調方式のメリットは、以下の特徴が挙げられます。
■メリット
- 建物全体を均一に管理できる
- システムが室外や隔離された室内に集約されているため静音性に優れている
- システムが1箇所に集約されているため、個別空調方式よりも個々の設置スペースやメンテナンスコストを抑えられる
- 水配管の制限がないので設計の自由度が高い
セントラル空調方式のメリットは、建物全体を均一に管理でき、システムが室外や隔離された室内に集約されているため静音性に優れている点です。また、システムが1箇所に集約されているため、個別空調方式よりも個々の設置スペースやメンテナンスコストを抑えられます。さらに、水配管の制限がないぶん、設計の自由度が高い点も魅力です。
一方、デメリットとしては以下の点があります。
■デメリット
- ユーザー側からは柔軟な運転・設定ができない
- システムが集約しているため、故障すると建物全体の空調が止まる可能性がある
- 故障した場合の修理費が高くなりやすい
- 増築やレイアウトの変更などの対応が難しい
- 設計の工数がかかりやすい
セントラル空調方式は、システムからは細かな設定が可能ですが、ユーザー側から運転のオンオフや温度・風量調整などの設定を変更することができません。ただし、エアハンドリングユニット(AHU)と「バリアブルエアボリューム(VAV)」によってゾーン単位での温度・風量・湿度調整が、間切りされた部屋の場合はファンコイルユニット(FCU)によって温度と風量調整が可能になります。
メリットとデメリットを踏まえると、以下のような建物・ケースではセントラル空調方式が適していると言えるでしょう。
- 規模が大きく、なおかつ使用する曜日や時間帯が同じ建物(オフィスビルや総合病院、商業施設、大型ホテルなど)
- 部屋やフロアごとに、きめ細やかな温度設定や風量調整が不要(ゾーン制御やビル管理システム(BMS)を活用すれば個別管理が可能)
まとめ
個別空調方式とは、空調機器を部屋やフロアごとに設置し、それぞれ独立して管理できるシステムのことです。建物の規模や用途に応じて、ルームエアコン(シングル・マルチ)、パッケージエアコン、ビルマルチエアコンがあります。
一方、セントラル空調方式は、建物全体の空調を一箇所で管理するシステムです。
個別空調方式とセントラル空調方式には、それぞれメリット・デメリットがあり、どれを選択するかで建物の快適性と省エネ性能に大きく影響します。それぞれの機器の特性を踏まえて、建物の規模や用途に応じて決めることが重要です。しかし、この選定には専門知識が求められるうえ、手間もかかります。
パナソニックでは、総合電機メーカーとしての経験と技術を活かし、意匠性や建築条件に応じたプラン作成・機器選定・プロット・各種計算まで無料でサポートいたします。「どちらの空調方式が適しているのか」「個別空調の中でもパッケージエアコンとビル用マルチエアコンのどちらが最適か」など、基本設計段階からのご相談にも対応いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
\機器選定・各種計算まで無料でご支援!/
Author 執筆者情報
![](https://22668684.fs1.hubspotusercontent-na1.net/hub/22668684/hubfs/b2b-web/column_page/column_img_L.png?width=150&height=150&name=column_img_L.png)
横松建築設計事務所
代表取締役 / 一級建築士 横松 邦明 氏
国内外で100棟以上の建物の計画/設計経験あり。企業/建築士会/建築士事務所協会等の講演も行っている。
BIMを黎明期以前より取り入れ研究してきた背景から、国土交通省へ協力する日本建築士会連合会BIMタスクフォースのメンバーとして、国内有数のメンバーと共に様々な活動を実施中。現在は東京、栃木、新潟のオフィスを拠点に設計活動を行っている。