多くの努力と課題を乗り越えてたどり着いたクリニックの開業の瞬間は、達成感で一杯かと思います。
一息つきたいところですが、開業はスタートラインに立ったばかり。本当に大変なのは、これからどのように医院経営を軌道に乗せ、安定的に継続・成長させていけるかどうかという点です。ここでは、クリニックの経営について、また資金計画の立て方についてをご紹介します。
目次
経営の基本
経営というのは実にシンプルで、診療(営業活動)によって得られる「収入(収益)」と、医院や診療活動を維持するための「費用(経費)」から成り立っています。収入(収益)から費用(経費)を引いた金額が損益となりますが、この数字がプラスであれば利益となり、医院のお金が増えていくことになります。このようにコンスタントに利益を出し続け手元にある資金をショートさせなければ、医院経営を続けていくことができるのです。逆に手元にある資金が足りなくなると、経営はたちまち大変なことになります。
もし万が一、資金がショートして医院が倒産という結果になってしまうと、先生自身の人生はもちろんのこと、雇用している従業員、取引先の業者、通ってくださっている患者など全ての人に重大な影響を与えてしまうことになります。しかも地域の皆さんにとって、医療機関というのは患者の健康や生命を守るための特別な存在です。つまり地域において重要な役割と社会的責任があるので、医療機関は健全に経営を営み継続し続けることが大切なのです。
資金計画を立てる
医院を開業するためには、立ち上げのタイミングで物件の初期費(保証金や前払い家賃等)、医療機器購入費、内装工事費、広告宣伝費、採用費、備品購入費など、数千万~億単位の多額の費用がかかります。これだけでも十分に大変なことなのですが、医院を経営し続けていく限り、雇用しているスタッフへの給与支払いや社会保険料負担などの「人件費」、薬品や衛生用品など診療に必要な物品の購入、医院で導入しているシステム利用料や水道光熱費など維持管理に必要なサービスに対する支払い、借入金の返済など、毎月多額のお金が手元から出ていきます。
つまり、開業資金とは別に「運転資金」という視点で収支を管理していかなければならないのです。さらに言うと、先生ご自身の生活もあるので「生活費」もしっかりと確保しなければなりません。繰り返しになりますが、医院開業初期は本当に多額のお金がかかるので、しっかりと管理する必要があるのです。
運転資金の「固定費」と「流動費(変動費)」
それでは、今回のコラムにおいて重要なキーワードである「運転資金」について、詳しく解説させていただきます。運転資金とは、医院の経営や診療を維持・継続していく上で必要なお金のことを指します。運転資金が途絶えた瞬間に医院は倒産してしまいます。先生がどんなに質の高い治療や医療サービスを提供していたとしても、医院が潰れてしまったら元も子もありません。それくらい運転資金を確保し続けることは重要なことなのです。
運転資金には大きく「固定費」と「流動費(変動費)」の2つに分類することができます。
固定費: 毎月大きな変動のない支出 | 流動費(変動費): 毎月の売上と連動している支出 |
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固定費は売上と連動しないので、売上が上下に変動したとしてもかかる費用は変わりません。一定以上の売上が確保できている状態であれば固定費の額がある程度高くても経営していけるのですが、売上が減り収入が少なくなってしまった際に固定費の割合が大きいと経営が苦しくなります。
具体的な例をお話すると、業績が落ちて売上が下がったとしても、家賃が減額されたり、給与の支払いが無くなるわけではないからです。一方で流動費と売上は連動しているため、売上が増えれば増えるほど流動費の額も大きくなっていきます。しかし、売上が下がった際はそれに比例して流動費の額も少なくなっていくので、そこまで大きな負担にはなりません。つまり事業を安定させるためには、固定費をなるべく抑え、流動費の割合が大きくなるような収益構造を構築していくことが重要となります。
収入と支出を明確にし、大切な資金をしっかりと管理
医院経営者にとって大切なことは、しっかりと売上を確保し、適切に支出を管理し、利益を出し続けさせることです。そのためには、日頃の収入の詳細、出て行くお金(支出)の詳細を適切に管理し続けることがとても重要です。とはいえ、先生方には日々の診療や スタッフのマネジメント・管理といった重要で責任の重い仕事がたくさんあるため、頭ではわかっていても医院の収支管理まで手が回らないことが現実的に起こります。
もし財務管理が苦手なら会計士・税理士・コンサルタントなどの専門家に相談するのも一つの手段です。金の管理が得意で苦にならないようであれば、ご自身でやっていただくのもよろしいかと思います。
ちなみに、医院のお金の出入りや残高を「見える化」させるためのツールとして「資金繰り表」というものがあります。日々の収入と支出を明確にして毎月の集計をおこない、キャッシュの状況・残高を把握します。支払い漏れや回収漏れの有無をチェックするとともに、資金の動きや残高を「見える化」することで、キャッシュが日々どのような流れで動いているかが明確になります。
医院の支出を把握する
売上(収入)は比較的把握しやすいのですが、出費(支出)に関しては、あまり正確に把握できていない傾向があります。実際このぐらいの出費だろうと捉えていたが、実は思っていた以上に出ていくお金が多いことも多々あります。また売上と出費の計画を予想してシミュレーションするわけですが、これらの計画はシビアにおこなうことをおすすめします。
楽観的なシミュレーションで計画を立ててしまうと、実際にその計画を下回った時に大変な苦労を強いられることになります。常に最悪の状態を想定しながら、厳しめに資金計画を立てていただければと思います。
まとめ
最後になりますが、医療機関で運転資金の管理をおこなう上で特有の注意点があります。医院で保険診療をおこなっている場合、窓口負担分以外の売上に関しては「2ヶ月後」に振り込まれる形になります。
ですので、開業して2ヶ月間は手元の資金がどんどん出ていく形になりますので、それを想定した上でスタートアップのプランを計画しておく必要があります。従業員の給与や家賃の支払いを遅らせるわけにはいかないので、この辺りはぜひ余裕を持って準備しておきましょう。
パナソニック空質空調社では、固定費の光熱費を削減するため、電気料金の約4割を占める空調換気設備の運用について、アドバイスできます。また開業前から気流を踏まえた設計をすることで固定費削減につながる場合があります。ぜひ開業をご検討されている方はご相談ください。
記事監修:MESプロモーション株式会社