医院を開業する際、医療の専門知識や経営スキルだけでなく、資金面でも十分な準備が必要です。今回は、何にどれくらいかかるのか、また、資金の調達方法についてご紹介します。
目次
医院開業の資金について
開業資金は、科目、場所、規模などによってばらつきはありますが、開業費用が比較的抑えられる精神科や診療内科でも4,000万円程度、高額な医療機器や設備が必要な脳神経外科・内科や整形外科などは億単位など、予想以上に多額の資金が必要となります。
最近では、新型コロナウイルスの感染拡大により、患者の衛生に関する意識が高まったため、空調設備や器具の滅菌、院内の感染症予防対策などにもコストを割く必要がでてきました。
クリニック開業にかかる多額の資金を全額自己資金で賄うのは、よほどのことがない限り難しいと思います。多くの場合、銀行や日本政策金融公庫などの金融機関から融資を受けることが一般的です。ちなみに、自己資金を多く用意できるほど金融機関から融資を受けやすくなるため、計画的に自己資金を貯めておくことも重要です。
なお、開業してから追加で資金を借りることはかなり難しいのが現実です。開業後に資金が足りなくなってしまうと大変なことになりますので、開業時には余裕を持った計画を立てて、手元になるべく運転資金を残しておいた方が安心です。開業を決意したら、まずはおおよその開業日を決め、そこに向けて資金計画や情報収集など準備を進めていきましょう。
診療科目やクリニックの規模などによってばらつきはありますが、内科を開業した場合の費用を例にして、それらを大まかに分類すると、以下の【A】~【E】に分けられます。ご覧いただくとわかる通り、開業費全体の中で占める割合が大きいのは【B】内装工事・什器備品費、【C】診療設備費、【E】運転資金となり、実に全体の8割を占めます。
医院開業には、以下のような費用がかかることが一般的です。
①物件の購入または賃貸費用
当たり前の話ではありますが、医療機関を開設するためには、医療を提供する「場所」を確保しなければなりません。場所を確保する手段は、土地を購入しそこに建物を建てる方法と、開業に適した物件を賃貸借契約で借りる「テナント開業」の2つがあります。
テナント開業と土地を買い建物を建てて開業する場合のメリット・デメリット
テナントで開業する | 土地を買い建物を建てて開業する | |
メリット |
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デメリット |
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テナント開業の場合、保証金、礼金、仲介手数料、共益費・管理費、前家賃、保険料などがかかってきます。居住用物件と違い、事業用の物件は保証金がかなり高額になります。もちろん物件にもよりますが、居住用物件の保証金(敷金)が賃料の1~2か月分に対し、事業用だと賃料の6~12ヶ月分ぐらいを保証金として支払うことになるので、かなり負担は大きくなります。
ちなみに最近では「フリーレント」といって、賃貸借契約締結から一定期間、賃料の支払いを免除してくれる物件もあります。高額な賃料が1~2ヶ月でも免除されるのはとても大きいので、ぜひ不動産会社に交渉してみてください。自前で建てるにせよテナントを借りるにせよ、開業場所を確保するための費用はかなり大きなウエイトを占めることになります。
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②医院の設計及び工事費用
開業場所を確保したら、診療できる環境を整えるための工事が必要となります。
医院の設計と工事は、患者と医療従事者の利便性を重視しつつ、機能的で快適な空間を作り出す重要なプロセスです。「テナント開業」の工事には、設計費用、B工事(空調、配管、分電盤等基礎の工事)、内装工事、看板・外装工事などが含まれます。工事を行うためには、様々な資材と作業をしてくれる職人が必要ですが、昨今の社会情勢の変化により資材や人件費が高騰しているため工事費用の負担も大きくなっています。
医院の規模や特性によって、工事の依頼を設計事務所か工務店か選ぶ必要があります。大規模な医院の場合は設計事務所の専門知識が重要ですが、小規模な医院や改修工事の場合は工務店の経験が役立つこともあります。医院の規模や特性、プロジェクトのコンセプトに応じて適切な専門家を選ぶことが重要です。
また、テナント工事や建物からの工事では、建物の状態や法規制、ビルの規定や既存の構造を考慮し、安全性と機能性を確保し、効果的な設計と施工を行うことが成功のカギです。建物のオーナーや管理会社と、テナントのルールや要件に合わせて調整を行いましょう。
設計事務所と工務店の費用比較
設計事務所と工務店の費用は、それぞれの専門性と提供するサービス内容に応じて異なります。プロジェクトのニーズや予算に合わせて適切な選択を行うことが重要です。カスタマイズされた設計や高度な専門知識を求める場合は、設計事務所に依頼する方が適しています。一方、効率的な工事を重視する場合は、工務店に依頼することで費用を節約することができるかもしれません。
設計事務所 | 工務店 |
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テナント工事と建物からの工事の費用
テナント工事と建物からの工事は、それぞれ異なる要件を持つため費用も変動します。ビルの条件や建物の状態を考慮して、リアルな予算を立てることが重要です。
テナント工事では、ビルオーナーや管理会社との調整が必要であり、その費用もプロジェクトに影響を与えます。一方、建物からの工事では、既存の建物の改修が必要なため、建物の状態により工事の費用が大きく変わることがあります。
テナント工事 | 建物からの工事 |
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パナソニックでは診療科目や予算・建物規模に応じて設計事務所、工事会社をご紹介可能です。
また、建物内の空気の流れをコンピューターシミュレーションを用いて再現・予測する空気のシミュレーションを無料で提供させていただき、患者の快適性の向上や、感染リスクや設備配置の評価、空調設計の最適化、医療機器の効率性確認などを踏まえた上で、空調・換気設備工事については設計から施工・メンテナンスまでトータルサポートさせて戴きます。
③医療機器や設備の購入費用
診療をスタートさせるにあたりもう一つ欠かせないのが、医療機器や器具、診療設備となります。これは開業予定の診療科目によって大きく異なりますが、各科目において次のような医療機器が必要となってきます。
- 内科(X線撮影装置、内視鏡、心電計等)
- 整形外科(X線撮影装置、施術台、リハビリ機器等)
- 皮膚科(顕微鏡、レーザー機器等)
- 眼科(顕微鏡、眼圧系、視野計、眼底検査機器、視力検査機器等)
- 耳鼻咽喉科(ネブライザー、聴力検査器、防音設備、X線撮影装置等)
- 小児科(X線撮影装置、心電計、ネブライザー等)
- 泌尿器科(尿流量測定装置、尿分析装置、X線撮影装置、超音波断層撮影、膀胱ファイバースコープ等)
- 脳神経外科・内科(MRI等)
- 産婦人科(内診台、X線撮影装置、DICOM画像を見られる高精細モニターとPACS、超音波診断装置、コルポスコープ)
診療をスタートするにあたり、色々な医療機器があった方が質の高い医療サービスを提供できるのですが、購入すればするほどお金がかかります。医療機器は大変高額なので、初期段階でたくさん導入しすぎると経営を圧迫します。医療機器に関しては経営が軌道に乗ってからでも購入できるので、開業時においては冷静にお考えいただき、本当に必要なものかどうかを慎重に判断するようにしましょう。
④オフィス用品や備品の調達費用
診療をスムーズにおこなうためには、医療機器の他にも院内のインフラを整備する必要があります、基本的なところだと、電話、FAX、インターネット回線などが挙げられますが、最近は医院のデジタル化が進み様々なIT機器やシステムが入ることも珍しくありません 例えば、電子カルテシステム、自動精算機、オンライン資格確認用端末、アポイント管理システム、オンライン予約システムなどです。
⑤医薬品や消耗品の調達費用
医療サービスを提供するには薬品、医療用ガウンやガーゼなどの衛生用品、アルコールや消毒液などの消耗品などが必要となります。薬品などは専門の卸会社から購入する形になりますが、それ以外のものに関してはインターネット通販などでも購入することができます。同じ商品でも購入する業者やWEB媒体によって金額は異なりますので、ぜひ比較検討して安く調達できるようにしましょう。
⑥スタッフの採用教育費及び給与や保険料などの人件費
院長1人で開業するスモールスタートのケースを除き、多くの場合はスタッフを採用しての開業が多いのではないでしょうか。開業時に必要な人員を揃えるため、医院の開業日の数ヶ月前から募集を出し選考と入職手続きをおこなう必要があります。ちなみに、スタッフ採用には有料の求人広告や人材紹介サービスを利用することも多いため費用がかかります。また、採用した人材がすぐに戦力として機能するわけではないので、教育やトレーニングにもお金をかける必要があります。
⑦広告・宣伝費用
当然のことですが、医療機関を新規開業した直後は地域の皆様からも認知されておらず、そのまま何もしなければ患者に来てもらうことは難しいのが現実です。集患をするためには、ホームページ制作、パンフレット制作、内覧会、その他広告・宣伝をおこなうなどの努力が必要となります。
⑧開業支援費用
医院を開業させるためには、行政とのやり取り、資金管理、各種届出、スケジュール管理など、専門知識とノウハウが必要となります。先生一人ですべておこなうこともできますが、開業に詳しいコンサルタントや専門家に手伝ってもらった方が負担も軽く安心して開業の準備を進めることができます。
⑨諸会費
入会は必須ではありませんが、開業するにあたり医師会への入会費用が必要となります。(都道府県、市区町村)
⑩予備費(予期せぬ出費への備え)
開業した後も、医院を運営していくためには費用がかかります。具体的には薬品や衛生用品等の診療原価、スタッフの人件費、社会保険料、賃料、水道光熱費、導入しているシステム利用料などが挙げられます。開業してすぐに経営が軌道に乗るわけではありませんので、多少余裕をもって運転資金を準備しておくことをおすすめします。
上記が開業に関するおおまかな諸費用となります。これらを把握した上で、調達方法についても検討する必要があります。
資金の調達方法について
開業の資金を調達する方法はいくつかの選択肢があります。
- 自己資金
- 親族からの支援金
- 銀行からの直接融資(プロパー融資)
- 制度融資(保証協会付融資)
- 日本政策金融公庫
- 補助金・助成金
まだ社会的な信用が薄い医院の開業時に、銀行などの民間金融機関から良い条件で融資を受けることは現実的に困難です。そこで公的創業融資である日本政策金融公庫の新創業融資の活用を検討しましょう。日本政策金融公庫は、医院開業後の経営サポートも行っています。医院経営における課題や相談事に対して、専門家のアドバイスや情報提供を行うなど、長期的なパートナーシップを築くこともできます。
医院経営においては、資金だけでなく、経営面での支援も重要な要素です。日本政策金融公庫は、医院開業を支援する上で頼りになる存在です。そのサービスやメリットを活用することで、開業に必要な資金を確保し、経営の安定化や成長を目指すことができます。ただし、融資を受ける際には、財務計画の作成や返済計画の検討など、慎重な準備と計画が必要です。
クリニック開業時には補助金や助成金を利用できる可能性もあります。国や地方自治体が提供している補助金・助成金の情報も確認してみてください。
まとめ
医院経営にとっての資金は、人間の体でいう血液と同じなので、資金が無くなる=医院の死(倒産)となります。開業後に後から追加で資金調達するのは難しいということを念頭において、計画的に資金を調達し、適切な経営計画を立てることで、安定した医院運営が可能となります。
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記事監修:MESプロモーション株式会社