2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症は5類移行となり、クリニックを取り巻く環境は変化しようとしています。アフターコロナを見据える転換期を迎えた今、クリニックは、どのような備えを行っておくべきなのでしょうか。この記事では、コロナ禍におけるクリニックの課題や変化を振り返り、中長期的な視点で今後のクリニック経営に求められる施策を考察します。
5類移行後もクリニックのコロナ対応は続く
コロナ対策の緩和が進められるなか、クリニックは自院の状況に合った対応を見極め、行うことが必要です。
重症化リスクの高い方が多い医療機関では勤務中のマスク着用を推奨
新型コロナウイルス感染症は、感染法上の分類が「2類相当」から「5類」へ引き下げられます。それに伴い、3月13日から原則としてマスクの着用を個人の判断で行えるようになりました。
厚生労働省発表の「マスク着用の考え方の見直し等について」では、医療従事者側の記載として、重症化リスクの高い方が多い医療機関・高齢者施設で、勤務時のマスク着用が推奨されるとあります。
さらには、原則個人の判断に委ねられるマスクの着用も、感染対策や事業上の理由等がある場合は、利用者や従業員にマスクの着用を求めることが認められています。
コロナへの警戒は十分か
マスク着用ルール以外の変化として、5類移行により、これまで限られた医療機関を利用していたコロナ感染者は、より多くの一般医療機関への受診が可能となります。政府は、コロナ患者に対応する医療機関を約4万2,000から約6万4,000まで増やす見通しです。
このようにコロナウイルス感染症への警戒は解かれつつあります。しかし、早急な変化は感染再拡大のリスクと表裏一体です。コロナ流行は予測が難しい側面もあります。
そのため、今後コロナ対応を開始するクリニックは、コロナ禍での経験や課題から自院にとって必要な対策を見極め、変化に備えることが不可欠といえるでしょう。
コロナ禍で見られたクリニックの主要課題
未曾有のパンデミックを経験したコロナ禍のクリニックは、様々な困難から気付きや課題を得ました。ここでは、その中から多くのクリニックが経験したであろう2つの事項を取り上げ、振り返ります。
感染症対策のノウハウ不足
コロナ感染拡大初期には、感染症対策のノウハウが周知されていなかったばかりに、一般医療機関においても、感染防御がないまま感染を疑われる患者さんへの対応を余儀なくされたのは、記憶に新しい事柄です。
ご存じのとおり、その後はオーバーシュートやクラスター、備品・医療機器・ベッド・医師などの医療資源の不足、医療体制の混乱・逼迫など、数々の困難が医療現場に降りかかりました。
これらを教訓とし、感染症流行の初期から各医療機関が適切な対処を行うための保健・医療提供体制の整備やBCPの必要性が高まりました。
外来診療の売上減と休廃業・解散の増加
コロナ感染拡大が進むと、一般医療機関では感染を警戒した患者さんの受診控えが見られました。経済産業省の調べによると、それまで安定的に推移していた病院・一般診療所の医療活動は、2020年3月~5月にかけて大きく落ち込みました。(出典:経済産業省)
2020年前半の「病院・一般診療所活動指数」を見ると、入院と外来の前年比では外来のマイナスが大きく、外来診療への深刻な影響がうかがえます。(出典:経済産業省)
2021年の帝国データバンク調べによれば、診療所の休廃業・解散は前年比21.4倍と急増しました。これまでは景気の影響をあまり受けず、比較的安定した経営を行えるとされてきた医療業界にも、こうした休廃業・解散の波は訪れています。
以上からも、医療機関は今後有事に強い安定的な経営体制を平時から整えることが求められるでしょう。
ウィズコロナで変化したクリニック運営
十分な医療体制が整っていない状態で始まったコロナ対応を乗り越え、ウィズコロナ期には、感染対策の徹底と並行し、デジタル技術の活用促進・法整備が医療業界でも進みました。患者さんの満足度向上や業務効率化を達成すべく、医療DX・ICT活用を取り入れるクリニックも増加しています。
感染対策の徹底と進化
コロナ以前と比べて医療機関における感染症対策のノウハウは増加し、蓄積されました。エビデンスに基づき、徹底すべき点と緩和しても良い点の区別についても理解が深まっています。基本的な感染対策を徹底しつつ、ロボット掃除機をはじめ、除菌が行える空調・換気設備なども活用が進んでいます。
通院の負担を軽減するオンライン診療
2020年4月に時限的・特例的な要件緩和が行われたのを機に、電話・オンライン診療を行う医療機関数は徐々に増加し、患者さんにとってオンライン診療はより身近な存在となりました。
オンライン診療には、感染リスクの抑制や患者さんの通院にかかる負担軽減・時間短縮といったメリットがあるほか、受診障壁が下がることでクリニック側も患者数の維持を期待できます。一方、初期投資に費用がかかる、診療できない疾患もあるといった点が懸念される面もあります。
デジタル活用で待ち時間・密集対策
コロナ以前は、多くの人々で混雑する待合スペースの光景は珍しいものではありませんでした。しかし、そもそも混雑した場所で長時間待たされることは患者さんのストレス増につながり、満足度低下を招きます。
混雑緩和と待ち時間短縮に関してはデジタル面からの対策も行われており、予約システムのほか、Web問診、順番管理システムなどが普及しつつあります。
非接触化で感染リスクを低減
接触感染を減らすべく、クリニックの非接触化も進んでいます。自動手指消毒器や自動水栓、自動ドアもその例です。また、精算業務を非接触で行える自動精算機・キャッシュレスシステムに切り替える施策は、業務効率化やスタッフの負担軽減策にも寄与しています。
アフターコロナに備えるクリニック経営の施策
感染症対策のノウハウ蓄積やデジタル技術の活用は進んだものの、今後もコロナ流行の行方は予想が難しく、さらには異なる新興感染症が出現する可能性も否めません。感染対策の継続と危機管理もさることながら、アフターコロナ時代のクリニックでは、経営力アップのための満足度向上や地域医療連携の強化を図る施策も重要性が増していくと推測されます。
目に見える感染対策で人々の不安を軽減
新たにコロナ感染者を受け入れるクリニックでは、基本的に院内のマスク着用ルールを継続し、コロナ感染に備えることが必要となるでしょう。
従来どおりの三密回避、手洗い・消毒といった手指衛生、防護具の使用は、視覚面からの感染不安の払拭にもつながります。目に見える対策で患者さんの心理的な負担を和らげ、通いやすい院内構築に役立てましょう。
清潔で快適な院内環境の整備
アフターコロナ時代のクリニックでは、感染対策や満足度向上の観点から、患者さんが清潔・快適に過ごせる院内環境の構築がさらに求められると予想されます。
例えば空調・換気設備による十分な空質管理、内装・光の取り入れ方の工夫、訪れる患者さんの年代に合わせたバリアフリー整備・キッズスペースの設置などの要素が挙げられます。心も体も安らげる院内空間はクリニックの集客におけるアピールポイントにもなり得ます。
オンライン診療をはじめとするデジタル化推進
国土交通省が令和3年度に実施した「第7回全国都市交通特性調査」によると、全国の外出率(1日1回家から出かける人の割合)が過去最低となりました。こうした行動範囲縮小への対策としても、オンライン診療は有効な方法だといえるのではないでしょうか。
加えて、電子カルテの普及も進んでいるほか、2023年1月には電子処方箋も開始されました。こうしたデジタル活用は業務効率化や人材不足の解消、人為的ミスの削減にも貢献し、患者さんと向き合う余裕を生み出すという意味でも医療の質向上につながるはずです。
地域医療連携は集患対策にも効果的
地域医療連携の逆紹介を増やす方法は、クリニックの集患を安定化させる施策の一つといえます。逆紹介を増加させるには、自院の良さや強み、患者層などを分析した上で、連携先の病院に対して継続したアピールを行う努力が重要です。
また、連携先の病院のニーズを理解し、要望に応えられる体制を整えつつ日頃から関係を深めておくことも効果的です。
有事に備える病院BCPの策定
コロナ感染拡大時の経験から、パンデミックを想定した病院BCP策定の重要性が叫ばれています。病院は、感染症をはじめ、地震・風水害などの非常時に需要が急増します。その状況下で早期の復旧と医療活動の継続を図るには、環境整備や医療提供体制などの面で実際に誰が何を行えばよいのか、あらかじめ定めておくことが欠かせません。
また、自治体・地域の医療機関などとの共助も必要となります。
災害拠点病院を中心に整備が進められてきたBCPですが、一般のクリニックも、地域の中で担う機能を維持しながら非常時に患者さんやスタッフを守るため、今後は自院に合ったBCPの策定が求められるでしょう。
社会の変化や有事に強いクリニックを目指そう
アフターコロナを見据えた転換期に至り、社会情勢の変化や非常時にも迅速な対応を行うには、日頃から環境整備や危機管理などの対策を積極的に講じていくことが大切です。また、コロナ禍で受けた外来診療への打撃を勘案すると、有事に強い経営体制を構築するため、経営力アップにつながる集患や満足度向上の施策も並行して進めておくことが有益でしょう。
清潔で快適な空間づくりをご提案するパナソニック空質空調社では、空調・換気・除菌・脱臭機能などを有した業務用空調空質連携システムを通じて、満足度向上につながる院内空間づくりのサポートを行っております。空調・換気設備に関するお悩みは、ぜひお気軽にご相談ください。