中毒診療の治療概念の除染(生体から有害物質を取り除く)には、催吐、洗浄、活性炭の投与、排泄の促進などがあります。活性炭の投与は消化管内で中毒物質を吸着させる目的で様々な中毒症例に用いられます。
本記事では、中毒で汎用される活性炭について詳しくご紹介します。
目次
- 臨床獣医師が押さえておきたい活性炭の基礎
- 活性炭(薬用炭)とは
- フードと混ぜて与えてもいい?
- 活性炭が吸着する物質は?
- 分子量
- 反復投与が効果的な物質
- チョコレート
- NSAIDs
- 併用に気を付ける薬剤は?
- 活性炭が吸着しない物質は?
- キシリトール
- そのほか
- 活性炭の豆知識
- まとめ
臨床獣医師が押さえておきたい活性炭の基礎
●活性炭(薬用炭)とは
活性炭は多孔質の炭素で、薬用炭とは医薬品としての基準を満たした活性炭のことです。活性炭の表面には0.1nmから1000nmの大きさにわたり、様々なサイズの穴があいており、その空間に化学物質を吸着します。それぞれの孔はミクロ孔、メソ孔、マクロ孔と呼ばれ、この多様性により、幅広い分子量の薬物の吸着を可能にしています。
活性炭は体内には吸収されず、全て便中に排泄されます。胃洗浄と併せて実施する場合は、胃洗浄の後に服用します。
●フードと混ぜて与えてもいい?
アセトアミノフェン50mgを活性炭1gに加え、2~14gのドッグフードと混ぜて犬に与え、活性炭の吸着能力を調べた試験では、フードの量が増えるにつれて吸着能力は低下しました。しかし、血中アセトアミノフェンの濃度はいずれのドッグフードの量の場合も、元の98.6%以上減少しており 、臨床的にはフードに混ぜても問題は少ないと考えられます。
活性炭が吸着する物質は?
●分子量:植物由来と石油由来の活性炭に関連して
植物由来の活性炭(ネフガードなど) は、吸着する分子量の幅が大きく、分子量100~90,000程度まで吸着します。中毒物質は、幅広く吸着すると言えますが、消化酵素などの高分子物質も吸着するため、長期的な使用は消化吸収不良を起こす可能性があります。
一方、石油由来の活性炭(クレメジンなど)は分子量100~1,000程度の物質を吸収します。
●反復投与が効果的な物質
腸肝循環する物質(フェノバルビタール、テオフィリン、カルバマゼピン、NSAIDs )
●チョコレート
チョコレートにはカフェイン、テオブロミン、テオフィリンなど複数のメチルキサンチンが含まれています。各メチルキサンチン類の犬と猫に対する中毒量は下記のとおりです。
表1 犬の中毒量 |
|
|
LD50(mg/kg) |
テオブロミン |
250-500mg |
カフェイン |
140-150mg |
テオフィリン |
250mg |
表2 猫の中毒量 |
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LD50(mg/kg) |
テオブロミン |
200mg |
カフェイン |
80-150mg |
テオフィリン |
800mg |
これらチョコレート中毒の原因となるメチルキサンチン類の一つ、テオフィリン は約90%が肝臓で代謝されます。活性炭はテオフィリンだけでなく、その代謝物まで吸着します。ラットにアミノフィリンを投与した実験では、血中からの消失は活性炭を複数回経口投与することで促進されました。
この理由として、活性炭は腸管粘膜や胆汁を介して、テオフィリンや代謝物を吸着することで、再吸収を阻害するとともに、血管側と腸管側に大きな濃度勾配を作り出し、これらの物質を血管側から腸管側への拡散を促進させるためと考えられています。
●NSAIDs
人用のNSAIDsが用いられれた解熱鎮痛剤を誤飲するケースでも有効です。イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナクなどで有効な吸着が確認されています。 アセトアミノフェン中毒の際に用いられるアセチルシステインを活性炭は吸着するので、後述するように、時間をあけて服用します。
併用に気を付ける薬剤は?
アセトアミノフェン中毒では、アセチルシステインが治療に用いられることがあります。
アセトアミノフェンの服用によりNAPQIが過剰産生されると、グルタチオンが枯渇します。アセチルシステインは、グルタチオンの前駆物質であるため、投与によって枯渇を防ぐことで解毒効果を示すと考えられます。活性炭は、生体を用いないin vitro の実験でアセチルシステインを吸着することが認められているので、同時に使用するとアセチルシステインの解毒効果を弱める可能性があります。
活性炭とアセチルシステインを併用する際は、活性炭の使用から1時間以上経過してからアセチルシステインを用います。人医療において、アセトアミノフェン中毒に対して活性炭を反復投与する場合は、アセチルシステインと2時間毎に交互に投与します。
活性炭が吸着しない物質は?
●キシリトール
キシリトールは犬の膵臓のインスリン分泌を刺激し、重度の低血糖を起こします。インスリンの放出量は、等量のグルコース接種の場合の2.5~7倍にも上ります。人では3〜4時間以内に吸収され、血漿濃度のピークに達しますが、犬では30分以内に到達します。
キシリトールは、活性炭ではあまり吸着されないことが知られています。全く吸着しないわけではなく、in vitroでの研究では、pHとインキュベートした時間など条件により変わるものの、キシリトールの活性炭への結合率は比較的低く、この研究結果とキシリトールの消化管からの吸収時間(Cmaxに到達するまでの時間30分以内)を考慮すると、犬のキシリトール中毒において活性炭の投与はあまり推奨されていません。
しかし、動物個体を用いたin vivoでの犬の生体内における活性炭とキシリトールの吸着に関する研究が不足しているため、活性炭を使用する獣医師もいます。192件の犬のキシリトールの誤飲を回顧的に解析した研究では、27.6%(53症例)で活性炭の投与が行われていました。この研究の著者らも、活性炭の投与は積極的には推奨されないとしつつ、効果については回顧的な研究のため未だ断定できない、としています。
●そのほか
メタノール、エチレングリコール、硝酸鉛、硫酸タリウム、炭酸リチウム、塩化カリウム、臭素酸ナトリウム、ホウ酸は吸着されないか、されても結合率が低く、臨床的な効果は無効とされます。リチウムは、水溶液中ではリチウムイオンとして存在します。無機イオン類は活性炭にほとんど吸着されないため、同じようにリチウムイオンも吸収されないと考えられます。
活性炭の豆知識
濃度にもよりますが、アンモニアと硫化水素、メルカプタンなど悪臭の原因になる物質も吸着除去できるので、悪臭防止の製品にも用いられることがあります。
まとめ
活性炭は古くから中毒診療に用いられてきました。幅広い物質に有効な活性炭ですが、有効性が期待できない物質についても、改めてメカニズムを含めてご紹介しました。チョコレートやNSAIDsなどは遭遇する回数が多い、かつ重症度も高くなることがあるので、活性炭の効果について、改めてご確認いただき、診療にいかしていただければ幸いです。
また、中毒診療時にどういった種類の活性炭が望ましいかについては、統一したコンセンサスは現在ありません。しかし、理論的には中毒対応など一時的な場面では、吸着する分子量の幅の多い植物性の活性炭(ネフガードなど)を投与、CKDなど継続して使用する場面では、消化酵素の吸着を抑えるため、石油系の活性炭(クレメジンなど)の投与をするといった選択肢もあるかもしれません。
なお、キシリトールに関しては、一般的には無効とされるものの、意外にも活性炭の使用率が高い結果となりました。研究実施した著者らも回顧的研究の性質上、実際の効果は不明としていましたが、もし、ご経験のある先生がいらっしゃいましたら、ご意見お寄せください。
参考
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・Schmid RD, Hovda LR. Acute Hepatic Failure in a Dog after Xylitol Ingestion. J Med Toxicol. 2016 Jun;12(2):201-5. doi: 10.1007/s13181-015-0531-7. PMID: 26691320; PMCID: PMC4880608.
・AHMED, Muthanna J. Adsorption of non-steroidal anti-inflammatory drugs from aqueous solution using activated carbons. Journal of environmental management, 2017, 190: 274-282.
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・榎屋友幸, 薬用炭-中毒治療における薬用炭の使い方とは?, 薬局74巻4号, 2023年3月)
https://webview.isho.jp/journal/detail/pdf/10.15104/ph.2023040155
・有森和彦, et al. 数種の薬物の活性炭への吸着. 病院薬学, 1990, 16.6: 380-384.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs1975/16/6/16_6_380/_pdf
・アセチルシステイン内容液17.6%「あゆみ」添付文書, 2016, 1月改訂(第9版)、https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066031.pdf
・上條 吉人, 精神神経学雑誌 117: 299-304, 2015, 第110回日本精神神経学会学術総会急性薬物中毒概論―向精神薬を中心に― https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=abst&vol=117&year=2015&mag=0&number=4&start=299
・中野重和. 最近の活性炭をめぐる話題. 生産技術誌, 1994, 46.4: 15-20. http://seisan.server-shared.com/464/464-15.pdf
・Wilson HE, Humm KR. In vitro study of the effect of dog food on the adsorptive capacity of activated charcoal. J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2013 May-Jun;23(3):263-7. doi: 10.1111/vec.12037. Epub 2013 Mar 20. PMID: 23517400.
・ https://www.dvm360.com/view/chocolate-proceedings, 2023/11/17参照
監修者プロフィール
獣医師
福地可奈
2014年酪農学園大学獣医学部卒業したのち、東京都の動物病院にて4年間勤務し犬や猫を中心とした診療業務に従事しました。現在大学院に在学しつつ、獣医師や一般の飼い主様に向けた動物の中毒情報を発信するなど臨床とは異なったアプローチで獣医療に貢献することを目標に活動しています。
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