9月 20, 2023
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猫のピレスロイド系薬の中毒~飼い主に伝えるべき危険性と予防策~

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前回は、マダニに対する駆虫薬をいくつか取り上げました。 

今後は、SFTSやオズウイルスなどまだ不明点も多い新興のダニ媒介性疾患にも注意が必要であることから、なるべく早くダニを駆虫することが重要と記載しました。

フォートレン®︎(Elanco)に代表されるように合成ピレスロイド系薬剤(Sps)であるペルメトリンが含まれた駆虫薬はマダニが付着する前から効果を発揮し、吸血開始前に駆除できるということで、有用かつ犬や他の哺乳動物には、非常に安全域の広い薬剤ですが、猫では毒性が高い物質です。獣医師にとってはピレスロイド系薬剤が猫に禁忌というのは有名なことではありますが、飼い主様にはまだ伝わっていない部分でもあるかと思います。

飼い主様への啓発にもつながるよう、こちらでは猫におけるピレスロイド系薬剤、特にペルメトリンの危険性 ・毒性について解説します。

 


目次


 

合成ピレスロイド系農薬とは?

元々は、シロバナムシヨケギク(除虫菊)というキクから抽出されたピレトリンという成分に、殺虫効果が見出されたのがピレスロイドの利用の始まりです。蚊取り線香には、このピレトリンなどのピレスロイドが含まれています。
現在では、様々なピレスロイド系の薬剤が合成され、これらは合成ピレスロイド系薬剤(SPs)と呼ばれています。
獣医療ではペルメトリンが汎用されています。

●作用機序は?

昆虫の末梢および 中枢神経の軸索またはシナプスに作用し、ナトリウムチャネルの脱分極を介して細胞膜に反復興奮を起こし、痙攣や麻痺を引き起こします。哺乳動物にも作用しますが、素早く代謝されるため安全性が非常に高いです。動物用医薬品として、日本では牛・豚・鶏の駆除剤として承認されており、海外ではアメリカ、カナダ、ブラジルなどで登録されています。例外として、猫では毒性が高いことが知られています。

薬物代謝で重要なグルクロン酸抱合に必要なグルクロニルトランスフェラーゼを欠くことで、体内に薬物が高濃度に蓄積し、副作用が発現しやすくなっているためではないかと考えられています。

 

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猫のペルメトリン中毒について

●臨床徴候について
ピレスロイド系薬剤であるペルメトリンは昆虫の神経系に異常興奮を起こしますが、人間では神経系に届くまでに素早く代謝され解毒されます。しかし、猫では肝臓におけるグルクロニルトランスフェラーゼを欠くこと等を理由に、ペルメトリンが猫の血液脳関門を突破して神経系に作用し神経症状を主徴とする中毒を発現します。

振戦/筋肉の攣縮(れんしゅく)が80%の猫に見られ、次いで痙攣、知覚過敏、斜頸  、運動失調などが見られます。
合併症も一部の猫で起こします。低体温、電解質異常、誤嚥性肺炎などが見られました。 過去の報告では、入院期間の中央値は2日間(0.5~11days)ですが、誤嚥性肺炎を起こした症例では、プロポフォールの持続点滴を受けながら気管挿管を受けて管理されるなど、重症例では入院期間が長引く傾向にあります。

安楽死に至った症例も報告されています(主に治療費が払えないことによる経済的理由によるものと推察されています)。

 

●中毒を起こす量について
猫における経皮致死量は100mg/kgと報告されています。
犬を用いた実験では経口での亜急性毒性試験時に確認された無毒性量は 100 mg/kg /dayと確認されています。

1年間の長期にわたる慢性毒性試験ではイヌの無毒性量は5 mg/kg/dayで、これを元にイヌの1日摂取許容量(ADI)は0.05 mg/kg/dayと設定されました。

ノミやマダニの駆除として使われる際はイヌの体重1 kgあたりペルメトリンを50 mgが基準滴下量となっており、製品には100 mg以上ペルメトリンが含まれています。そのためイヌに処方された製品を1つでも猫が摂取すると中毒を起こす可能性があります。

 

●治療について
※過去のペルメトリン中毒の報告に記載されているものを取り上げていますが、実際の治療の優先度などは症例に応じて変わります。実際に診療される際は、参考文献 をご確認ください※

経口曝露の場合は、1時間以内に嘔吐させて、活性炭や下剤を投与しての除染が有効です。また、食器用中性洗剤を使用して、ぬるま湯で毛を洗浄します。冷水は細胞膜のナトリウムチャネルにおける反復興奮を活性化させて症状を増悪させる可能性があるため、使用しないようにします。

また、静脈内輸液、保温などの支持療法も行われています。誤嚥性肺炎を起こした場合は抗菌薬の投与も行います。

 

 

おわりに

かつては市販(動物病院でなくペットショップなどの販路)のスポットオン剤やノミとり首輪にペルメトリンが猫の経皮致死量以上含まれているにも関わらず猫に使用できるといった記載もついて飼い主様自身が購入できる状態でした。現在では企業努力もあり犬用製品であってもフェニトインなどが使用されるようになりペルメトリンが含まれた製品は少なくなりました。

しかし、動物病院では犬用のノミ・マダニ駆虫剤としてペルメトリン製剤のスポットオン製剤が手に入ります。犬と猫両方飼育している家庭では、犬に塗布した薬剤を猫が舐めてしまう可能性もあります。飼育状況に応じて、猫と犬を多頭飼いしている家庭ではペルメトリン製剤以外の駆虫薬を考慮するなどが必要になります。

ペルメトリン中毒では特効薬が存在しないため支持療法が中心となります。重症例では気管挿管を伴う治療が必要になることもあり、飼い主様にとっての経済的な負担も莫大なものとなります。

ペルメトリン中毒では、安楽死に至った症例も報告されていますが、主に治療費が払えないことによる経済的理由によるもので、正しい必要な治療ができれば救命できた可能性があったと推察されています。そして、報告されている猫のペルメトリン中毒の多くは、イヌ用のノミ取り滴下剤を猫に塗布したことで発生しています。海外で起きた中毒事故によると、ペルメトリンが配合された製剤のパッケージには”猫には使用しないこと”と記載されていますが、それでも読まずに使用する飼い主様は一定数存在するということでした。来院時には、猫には必ず猫用のものを使用するなど、動物病院側からの注意喚起が重要と考えられます。

 

 

 

参考

BOLAND, Lara A.; ANGLES, John M. Feline permethrin toxicity: retrospective study of 42 cases. Journal of feline medicine and surgery, 2010, 12.2: 61-71.

 MALIK, Richard, et al. Permethrin spot-on intoxication of cats: literature review and survey of veterinary practitioners in Australia. 2010.

・農薬・動物用医薬品評価書, ペルメトリン, https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc2_no_permethrin_310130.pdf

・アースノミとり首輪WSB, https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/2922, 2023/08/29参照 現在は終売になっており、ペルメトリンではなく猫にも使用できるフェニトインが含まれた製剤にアップデートされています

 

 

監修者プロフィール

獣医師 福地可奈先生のプロフィール写真

獣医師
福地可奈

2014年酪農学園大学獣医学部卒業したのち、東京都の動物病院にて4年間勤務し犬や猫を中心とした診療業務に従事しました。現在大学院に在学しつつ、獣医師や一般の飼い主様に向けた動物の中毒情報を発信するなど臨床とは異なったアプローチで獣医療に貢献することを目標に活動しています。

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