診療を行う重要な場所の設計・施工は、物件選定の次に重要といっても過言ではないでしょう。勤務時間のすべての時間をこの空間で過ごすことになりますので、導線・オペレーションのしやすさを考えた設計を目指しましょう。
また、動物病院開業においては設計・施工が最も費用がかかってくる部分であり、しっかりと業者選定・打ち合わせが重要になってきます。
診療に効果的な設計
導線を綺麗に整えることが診療を効率化するポイントの一つになります。
※敷地が大きくなればなるほど、導線が複雑になりやすく非効率になる可能性もあります。
坪数が多い場合は、中待合を設置
ある程度の坪数がある場合で、より効率の良い診療を考えるのであれば「中待合」を事前に予定しておくと良いでしょう。待合から呼ばれていく際は飼い主様と動物が一緒に移動するため、時間がかかるケースもあります。1件当たり数10秒の時間短縮ができるようになります。1ヶ月の期間で考えると軽視できないくらいの診療時間短縮に繋がります。
期間について
設計図や内装の打ち合わせは約1~1.5か月、施工開始から引き渡しまでの期間は、1~1.5か月程度です。設計会社との打ち合わせ、やりとりに多くの時間がかかることがあります。
設計・施工会社の選定
大きく2つのパターンがあります。
- 設計・施工をすべてオールインで実施している企業に依頼するケース
- 設計と施工を別々で依頼するケース
設計・施工業者は動物病院の設計・施工実績がある会社を選びましょう。設計と施工が別会社の場合は、設計会社から施工会社を紹介されるケースもありますが、動物病院の実績のある会社を紹介いただくように要望をだされることをおすすめします。動物病院の施工には動物病院ならではの特殊な工事があるため、実際に設計・施工をいくつか経験された会社が望ましいと言えます。
※最初の見積もりよりもその後、追加で高くなるケースもあります。
※何社か相見積もりをして比較検討しましょう。
※施工期間中から電気・水道代が発生します。
※期間などは業者・状況によって多少前後します。
引き渡しまでの流れ
施工完了までの大まかなステップをまとめてみました。
- 設計・施工会社を数社ピックアップ
- 物件契約前に設計士に現地調査を依頼
- 設計・施工の相見積もりをとり比較検討
- 1社に確定し、より入念な設計図の打ち合わせ
- 設計図完成・契約
- 着工
- 完成前の立ち合い、引き渡し
設計・施工費用について
一般的には坪40〜60万円程度となりますが、内装デザインや仕様する材料のクオリティなどによってそれ以上になることもあります。予算に収まる形になるよう担当者と相談していくのがいいでしょう。設計と施工の会社が別々の場合は、施工費用の10%程度が設計費用としてプラスされることが多いです。
※昨今は材料費用が高騰しているため、数年前に比べると若干施工費用が高くなっています。
※坪単価はあくまでも目安になります。
飼い主様満足度向上の設計・施工のポイント
導線以外にも、設計・施工段階で重要なこととして「飼い主様満足度」を高める工夫があります。
🗒️①防音・騒音対策🗒️
犬の吠える声や猫の鳴き声などの声が診療室の外に大音量で聞こえてしまうと、待合室で待っている他の動物たちが緊張したり、萎縮してしまったりしてしまいます。飼い主様も緊張している愛犬・愛猫をみて不安に感じてしまうため、防音ドアにするよう工夫していきましょう。
また、ドアの開閉時の音が大きいと騒音に繋がってしまうため、ドアの開閉時に音がしないような取り付けも施工会社にお願いしましょう。
🗒️②脱走対策🗒️
特に猫の診療で懸念される脱走についても施工時に工夫を行いましょう。脱走しないように、診療室にはカギをかけられる仕様にしたり、脱走用の柵を設置したりするなどして対策を行いましょう。
🗒️③臭い対策🗒️
特に猫の場合は、いつもと異なる臭い緊張してしまいます。よって、施工段階から徹底した臭い対策を行うことが重要です。テナント内の空調設備を脱臭ができるシステムにするなど空調にもアプローチした対策をしましょう。
🗒️④動物別の待合室・入院室・診察室🗒️
昨今では犬と猫の待合室を分ける動物病院が増えてきました。新規開業をする際は、スペースに限りがある場合を除き、犬と猫の待合室を分けるような設計にしておくとよいでしょう。また、診察室や入院室については、犬専用・猫専用というように動物別に空間を完全に分けられるようにすると、動物たちの不安が軽減され、飼い主様の満足度も高まるでしょう。
スタッフに配慮した設計・施工のポイント
スタッフが働きやすいように配慮した工夫も大切です。
🗒️①院長室とスタッフルームは分ける🗒️
スタッフルームではスタッフが寛げる空間にしたほうがよいです。また着替えなどプライバシーを守る空間ともなります。よって、院長が立ち入らなくてもいいように、院長室とスタッフルームは別空間に分けることをおすすめします。
🗒️②診察室・入院室・手術室の様子をうかがえるようにする🗒️
中の様子が確認できるように処置室側の診察室のドアを一部クリアガラスにする工夫もおすすめです。クリアガラスのサイズは調整できます。
これらのハード面の施策は、開業後はなかなか変更することが難しいです。
よって、新規開業時から飼い主様や動物に配慮した設計を目指しましょう。
監修者プロフィール
ねこのタミ 代表取締役 / 開業・経営アドバイザー 辻 建三氏
立命館大学経済学部卒業。経営コンサルティング会社の医療グループ内の中途社員では、最速且つ初のチームリーダーに昇格。動物病院チームを立ち上げ、クライアント先の業績を平均で120%伸ばしており、持続安定的な病院経営づくりのコンサルティングを実施。自ら動物病院を開業し、そこから得たノウハウで開業・経営アドバイザーを実施。