1月 16, 2024
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動物病院開業時に抑えておくべき業界の全体像

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いざ動物病院を開業しようと考えた際、「どこで開業しよう?」「どんな動物病院にしよう?」と具体的に構想が広がっていくことと思います。
ですがその前に、大前提としてご自身が開業しようとしている動物病院業界とは、どのような状況にあるかを改めてきちんと把握してみましょう。
 

本記事では5つの動物病院の業界動向、および今後の方向性について解説していきます。 



 

 

1.小動物診療施設の増加率及び開業件数は微増

飼育動物診療施設数(小動物、その他)は2022年に12,616件登録されています。2012年の10年前と比較して、1,875件増加しています。また、エックス線装置届出施設数の推移から往診専門以外の動物病院の開業件数が予測できますが、2012年の10年前と比較すると、1,040件増加していることが推測できます。 

飼育動物診療施設 開業届出数(小動物、その他)とエックス線装置届出施設数

※引用元:農林水産省 飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数) 
※本グラフは、農林水産省のデータをもとに株式会社ねこのタミが作成

2.中規模・大規模の動物病院の増加

獣医師1名体制の小規模病院が減少する一方、獣医師2名以上体制の中規模・大規模の動物病院が増加しています。異業種からの動物病院業界への新規参入も要因の一つだと考えられます。 

【動物病院における獣医の数】

動物病院における獣医の数_pc

※引用元:農林水産省 飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数) 
※本グラフは、農林水産省のデータをもとに株式会社ねこのタミが作成

 

3.猫診療件数の増加

猫の診察件数が以前より増加する傾向にあります。東京都内ではすでに、犬より猫の診療件数の方が上回っている病院が増えつつあります。この流れは、今後地方エリアにも徐々に広がっていくでしょう。 

 

4.飼育頭数の減少とペット関連支出の増加

犬の飼育頭数は大幅に減少していますが、都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数は微減で留まっています。つまり、健康意識の高い飼い主層が増えているということです。実際に、ペット関連の支出が大幅に増加していることが、動物病院経営への追い風となっています。 

 

5.獣医師の人材不足と未就業女性獣医師の増加

動物病院で勤務している20代の獣医師の男女比をみると、女性比率が男性比率を上回っています。しかし、30代以降の就業女性獣医師の割合は減少しています。30代以降で家庭を持つ女性獣医師にとっては仕事と家庭の両立が困難であり、休職・早期リタイアをしている方が数多くいることが推測できます。

動物病院で獣医師の人材不足が問題視されており、未就業の女性獣医師を採用できるかどうかが人材不足解消の一手となるでしょう。 

 

6.これからの動物病院開業の流れ、方向性

上述のように動物病院業界のキーワードを列挙すると、 

  • 競合動物病院の増加(異業種参入含む)と中小規模動物病院の増加による、集患力低下を打開するための差別化
  • 猫診察件数増加と猫診療の強化
  • 健康意識の高い飼い主様が増加による追い風
  • 未就業女性獣医師が臨床の現場に復帰できるための働き方改革と効率化

となります。

よって、今後開業を検討する際には、以下の項目について熟慮した上でご自身の開業に活かしていきましょう。 

 

動物病院の専門特化及び専門性強化

競合動物病院の増加により最も悪影響を受けることとして、(新規)集患数の減少が挙げられます。開業後、周辺に動物病院(中小規模の病院も)が新たに増えたとしてもゆるぎない集患力を保持するためには、専門特化した動物病院であることが重要です。

専門特化のアプローチには

  • 動物種別による専門病院:猫専門、エキゾ専門、鳥専門など
  • 診療別による専門特化:歯科専門、皮膚専門、眼科専門、リハビリ専門など

があります。

昨今の飼い主様は動物病院を選ぶ際、より専門性の高い病院を選ぶ傾向にあるため、専門性が高い病院は集患件数が増えやすくなります。さらに、専門の対象のみを診療するというスタイルであれば、必要な機材や設備も最小限にとどめることができるため、開業時の設備費用機材費用の削減にも繋がります。

このような専門特化に振り切ることが難しいと考えている方の場合は、一般的な犬猫に対する診療科目の中から、1つあるいは2つの診療科目をより多く診察するように専門特化するアプローチも集患に効果があります。例えば、一般的な犬猫エキゾの動物病院であっても、歯科外来を別でアピールすることで歯科の集患、診察件数が増加します。 

 

新規集患と満足度強化

新規集患を増やすための施策としてWEB経由の集患に力をいれることが重要です。WEBというのは、ホームページ、Googleマップ(クチコミ)、インスタグラム、ポータルサイトなどがありますが、特にホームページをしっかりと対策しましょう。ホームページをもっていない動物病院もまだ存在しますが、昨今では過半数が検索エンジン(GoogleやYahoo!など)で動物病院を検索し、ホームページを見て、その動物病院に来院するというステップを踏んでいます。さらに、ホームページをより多くの方に見てもらうために、WEB広告(リスティング広告とも呼びます)を設定することも重要です。WEB広告の予算は月額10万円以上が望ましいです。

次に、飼い主様の満足度を高めて定期的に来院してもらうことが大事です。多くの動物病院で意外と盲点となっているのが、飼い主様への情報提供です。情報提供の方法として、カウンセリングの導入を検討してみましょう。診療中に時間をかけて飼い主様のお話に耳を傾けお悩みを解消することも重要ですが、それと同時に、飼い方や生活の仕方提案、予防に重要な健康診断やワクチンの啓もうなどを丁寧に実施することが大切です。カウンセリング専用ルームが設置できるとより良いです。診察室の中でこのように情報提供を行うことで、飼い主様は愛犬愛猫への不安が解消され、病院への信頼が高まるきっかけになります。 

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女性獣医師が活躍できる働き方改革推進

女性に長く働いてもらいやすい勤務時間、休日、給与、勤務形態などについて検討することです。
特に女性が働きやすいと感じるポイントは、

  • 定時に帰れる​(残業がほとんどない)
  • 就業時間が早く終わる(18時台退勤が望ましい)
  • 拘束時間が短い​(昼休み時間の短縮)

です。

さらに喜ばれることとして、 

  • キャリアステップがあること
  • 予約制を導入している​こと

があります。キャリアステップがあることで、自分の獣医師としての成長を実感することができます。また予約制を導入することで時間に追われることのないゆとりのある診療となり、スタッフ満足度が向上します。 

 

診療効率化(デジタル活用)

飼い主様の満足度向上やスタッフの働きやすさにも繋がるデジタルを活用した診療効率化を目指しましょう。具体的な方法としては

  • 予約システム
  • 事前問診システム
  • 電子カルテ
  • クレジットカード等のキャッシュレス払い
  • 定期健診やワクチンのリマインドシステム

などがあります。

特に重要なポイントは、予約システムの導入です。時代の流れから予約制を導入している病院も増えています。これにより、ネット予約で24時間いつでも予約が取れる状態になるため、新患数の増加も期待できます。

業界動向をきちんと把握し、ご自身の動物病院のコンセプトや方向性を考える参考にしていただければと思います。

 

 

監修者プロフィール

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ねこのタミ 代表取締役  / 開業・経営アドバイザー 辻 建三氏

立命館大学経済学部卒業。経営コンサルティング会社の医療グループ内の中途社員では、最速且つ初のチームリーダーに昇格。動物病院チームを立ち上げ、クライアント先の業績を平均で120%伸ばしており、持続安定的な病院経営づくりのコンサルティングを実施。自ら動物病院を開業し、そこから得たノウハウで開業・経営アドバイザーを実施。