11月 1, 2023
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COVID-19(SARS-CoV-2ウイルス)が与えたペットならびに動物病院への影響

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2019年に中国で発生したSARS-CoV-2によるCOVID-19感染症は全世界にパンデミックを起こしました。日本でも多くの方が感染し、亡くなられ、私たちの生活も大きく変化しました。

この記事では、SARS-CoV-2のペットへの感染状況 と、日本の動物病院に与えた影響について解説いたします。

 


目次


 

SARS-CoV-2のペットへの感染状況について

2022年3月1日までに、日本では約499万5千人がCOVID-19に感染しており、人口の約4.0%にものぼります。
一般社団法人ペットフード協会の報告によると、2022年度の犬の飼育等頭数は705万3千頭で世帯飼育率は9.69%、猫は883万7千頭で世帯飼育率は8.63%と報告されています。

KANNEKENSらは、COVID-19感染者がいる世帯では飼われている18.8%の犬猫(犬27頭、猫31頭)にSARS-CoV-2が陽性であったと報告しています。一方、同一世帯で飼われているペット間の感染はなく、基本的にはCOVID-19は人からペットへ感染するパターンが多く、ペット間の感染は稀と判断しています。また、興味深いことに、犬猫がいる世帯のうち2人以上感染している場合は、1人だけ陽性の場合と比較して、飼われている犬猫のSARS -CoV-2陽性率が高かったと報告しています。暴露されるウイルス量が多くなったために、伝播する率が高くなったのかもしれません。

猫はSARS-CoV-2ウイルスに感受性があり、猫-猫間感染が起きるほか、後述するように猫-人感染も発生します。  
犬は猫に比べて感受性は低いとされていますが、感染率には差はないことが示唆されています。興味深いことに、ウイルスの中和抗体価は、猫は犬よりも高い抗体価を有していました。感染犬では、調査した犬全てにオミクロン株に対する中和抗体を有していないことがわかっており、再感染が起こる可能性が示唆されています。

 

●ペットから人に感染する事例もある

2021年、タイで8月に32歳の女性獣医師が、デルタ株に感染した飼い主の猫を診察して3日後に発熱、鼻汁、咳などを発症しました。その後、獣医師、飼い主、飼育されていた猫から同じ型(B.1.167.2)のコロナウイルスが検出されました。獣医師は猫から感染したと考えられています。    

 

●猫への感染について

2021年にSebastian Giraldoらが、飼育されている猫や野生の猫へのSARS-CoV-2感染に関する256の論文を解析して臨床徴候について報告しています。半数以上は無症状(asymptomatic)ですが、46%では呼吸器症状を中心とした臨床徴候が見られると報告しています。猫における一般的な臨床徴候は、咳、くしゃみ、息切れ、肺のラッセル音、充血、目やになどが中心となります。

ペットでは基本的に飼い主から感染しますが、飼い主が入院となった場合などは預け先を確保する必要があります。感染した飼い主からペットを預かり、お世話をすることになる人 も、ペットから感染しないように感染対策を行うことが重要です。   感染した猫が、どの程度の期間ウイルスを排出するかについても研究がなされています。

表1 SARS-CoV-2が猫に感染した場合のウイルス排出期間について(n=5)   (伴侶動物における COVID-19より改変)

ウイルス排出期間

平均5.4

最大ウイルス排出期間

14日間

 

●犬への感染について

複数の論文を解析した犬での臨床徴候に関する総括はあまりありませんが、8頭の感染犬に関する報告では、7頭が無症状で1頭が軟便であったと報告しています。 
猫と同じように、犬でもウイルスの排出期間が調べられています。

表2 SARS-CoV-2が犬に感染した場合のウイルス排出期間について(n=8)   (伴侶動物における COVID-19より改変)

ウイルス排出期間

平均4.4

最大ウイルス排出期間

10日間

 

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 COVID-19が動物病院にもたらした変化について

日本のどのくらいの動物病院でCOVID-19による発生があったか?

2021年5月から6月にかけて、日本全国の動物病院に勤務する獣医師や動物看護師などの動物医療スタッフに対して、診察、勤務状況、診療施設の運営状況、精神的ストレスなどが調査されました。回答者は430名  (院長:73.5%、勤務獣医師:13.0%、動物看護師:10.7%、その他スタッフ2.8%)でした。
本研究実施時点でのCOVID-19の発生率は下記のとおりです。

表3 動物病院でのCOVID-19の発生状況
     (SARS-CoV-2 について 3. 動物病院における新型コロナウイルス感染症の影響より改変)

スタッフ属性

COVID-19の発生

獣医師

2.6%

動物看護師

1.9%

その他スタッフ

1.4%

飼い主

14.9%


動物病院内のマスクの着用や手指消毒などの衛生対策は強化されており 、病院スタッフにおけるCOVID-19の感染は院外で起きたと考えられています。
動物病院のスタッフにCOVID-19が発生した場合、36.8%が数日間病院を閉鎖していたと回答しています。  残りは感染者・濃厚接触者は自宅待機して動物病院の診療は継続していました。

 

●経営状況は変化したか? 

回答者を院長に絞って質問したところ、経営に関する支出は半数近い施設(45.8%)で増加したと回答しています。内訳としては感染対策費用の増加や、資材の入手困難に関連するものとなっています。
勤務体制について変化がなかったとする回答は89.3%で、新規採用する病院はいずれの職種も2.5~5%程度と、雇用は保たれる傾向にありました。

また、COVID-19の影響によるスタッフの解雇に関しては、獣医師が0.6%、動物看護師が0.9%、その他スタッフが1.1%と非常に低い割合でした。不足した物資としては、マスク(70.0%) 、ペットフード(66.5%) 、手指消毒剤(65.3%)が挙げられました。

これに対し、2021年に行われたCOVID-19パンデミックに対する91カ国の獣医師5,000人への調査において、海外では勤務状況について回答した10%の獣医師が、解雇や一時的な解雇があったと報告されています。

 

●飼い主にCOVID-19が発生した際の対策は?

この調査では回答者のうち104名(24%)でCOVID-19に罹患した飼い主様からのペットの預かり相談を受けていました。飼い主が感染した場合の対応についての回答は下記の通りです。(回答者:院長318名)

4 飼い主にCOVID-19が発生した際のペットの扱いについて
     (SARS-CoV-2 について 3. 動物病院における新型コロナウイルス感染症の影響より改変) 

 対応   

 割合

積極的に自院で預かる

10.7%

公的機関に相談

38.7%

民間に依頼

19.5%

決定していない

39.3%


動物病院では、コロナウイルス感染した飼い主のペットの対応だけでなく、さまざまな病気の動物の診察を行うため、感染した飼い主からペットを預かった際の感染対策にかかる人手や費用を考えると、積極的に預かるという選択は取りにくかったというのが現状かもしれません。COVID-19感染者のペットを無償で預かるプロジェクトを最大手ペット保険会社のアニコムが2021年12月まで実施しており、民間に依頼した中にはこうした取り組みを利用された先生もいらしたかもしれません。

近年は、SFTSなど新たな人獣共通感染症が出現しており、飼い主がそういった感染症に罹患した際にペットを預かるかどうか、その場合の対策についても院内マニュアルに追加し、スタッフと共有することをお勧めしいたします。

 

 

まとめ

ここまでご紹介した文献は数年前に取られたデータを基にしたものであり、世界だけでなく、日本でも状況は変化しており、現在ではCOVID-19に関する各データの数値に変動があると思います。日本でも感染対策費用や、各種資材の支出が増加したにもかかわらず、諸外国と比較して獣医師の勤務状況への変化(雇い止めなど)が低かったのは素晴らしいことです

本研究が行われた2021年にはそれまでに自主的な外出制限が推奨されていたり、ペットへの病原性や対策についても模索していたため、現状は変化していると思われます。外国には動物病院を結ぶ調査ネットワーク(Small Animal Veterinary Surveillance Network)があり、さまざまなデータが解析されていますが、日本にはまだこのようなネットワークがないため、他院がどのような状況であったかはあまり知られていないかと思います。COVID-19のパンデミックでは飼い主が入院中にペットが死亡するという例もありました。人獣共通感染症はCOVID-19SFTSなど新しいものだけでなく、狂犬病などは日本に再度入ってくる可能性もあります。

今後はパンデミックによる影響を最小限にできるよう、人医療と獣医療が連携する必要があるでしょう。

 

 

参考

・GIRALDO-RAMIREZ, Sebastian, et al. SARS-CoV-2 clinical outcome in domestic and wild cats: A systematic review. Animals, 2021, 11.7: 

・SIT, Thomas HC, et al. Infection of dogs with SARS-CoV-2. Nature, 2020, 586.7831: 776-778.

・MAEDA, Ken. 伴侶動物における COVID-19, https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/202304_P1-8.pdf

・蒔田浩平, et al. SARS-CoV-2 について 3. 動物病院における新型コロナウイルス感染症の影響. 動物臨床医学, 2022, 31.3: 89-93. https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/31/3/31_89/_pdf


・SILA, Thanit, et al. Suspected cat-to-human transmission of SARS-CoV-2, Thailand, July–September 2021. Emerging infectious diseases, 2022, 28.7: 1485.

・日本での既感染者は現在何%?コロナの“今”11知識/厚労省, https://www.carenet.com/news/general/carenet/52647 

・一般社団法人 ペットフード協会 2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査 結果 , https://petfood.or.jp/topics/img/221226.pdf

・FUKUMOTO, Fuka, et al. The impact of coronavirus disease 2019 (COVID-19) in Japanese companion animal clinics. Journal of Veterinary Medical Science, 2022, 84.8: 1041-1050.

・KANNEKENS‐JAGER, Marleen M., et al. SARS‐CoV‐2 infection in dogs and cats is associated with contact to COVID‐19‐positive household members. Transboundary and Emerging Diseases, 2022, 69.6: 4034-4040.
 

 

 

監修者プロフィール

獣医師 福地可奈先生のプロフィール写真

獣医師
福地可奈

2014年酪農学園大学獣医学部卒業したのち、東京都の動物病院にて4年間勤務し犬や猫を中心とした診療業務に従事しました。現在大学院に在学しつつ、獣医師や一般の飼い主様に向けた動物の中毒情報を発信するなど臨床とは異なったアプローチで獣医療に貢献することを目標に活動しています。

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