物件が確定したら、金融機関から借り入れをする準備に進みます。ほとんどのケースでは、金融機関からの借り入れになります。獣医師の資格をもつ方が借り入れを行う場合は、比較的スムーズに話が進みやすいですが、自己資金が少ない方や経歴が浅い場合は、金融機関側が慎重になることもあるので、きちんと準備していきましょう。
なお、異業種からの参入の場合は、資格者による借り入れに比べるとハードルが高くなります。自己資金額と事業計画内容を念入りに判断されるので、異業種からの参入の場合こそ徹底して準備していくことをおすすめします。
▼ 目次
借入額はいくらか?
開業する病院の規模、コンセプトなど様々な背景によって借入額が変わってきます。
専門性が高い病院や自己資金の多い方での借入額は2千万円程度です。一般的な1次診療で開業される場合は、4千万~5千万円程度となります。2次診療施設の開業では、1億円以上の借り入れとなります。
借り入れの金利はどれくらいか?
金利は、金融機関や借主の自己資金や経済状況などによって変わってきますが、1.5%〜2%になることが多いです。なお、日本政策金融公庫であれば約2%、地銀であれば約1.5%〜2%ぐらいになる傾向にあります。
自己資本はどれくらいが適正か?
開業する際に「自己資金をどれだけ用意しておけばいいのか?」というご疑問を抱く方も多いです。最低でも、開業費用の総額の10%以上あると良いでしょう。例えば開業費用が総額4千万円である場合、自己資金は4千万円×10%=4百万円が一つの目安です。もちろん、目安以上の自己資金があれば安心です。また、一般的に動物病院開業をされる方の自己資金は少なくて3百万円、中央値は5百万円、多くて1千万円程度でしょう。
🗒️自己資金額が開業をしたい意欲の現れになる🗒️
自己資金は、金融機関から借り入れをする際に、必ず確認されます。金融機関側からすると、自己資金をどれくらい貯蓄できたかどうかが、ご自身の開業意欲の判断指標になるからです。つまり、自己資金が目安以上にきちんと用意ができていれば、開業に向けて事前にしっかり準備してきた意欲の高い人だという印象を金融機関側は抱かれます。
自己資金が目安以下であっても、借り入れができないというわけではありませんが、資本金が少なすぎて借り入れ依存度が高いと、金融機関側からの印象は良くないこともあります。その場合は、金融機関の担当者を説得する材料が必要となります。材料とは、事業計画書内容の充実さや代表者の資産背景(株式や不動産等の資産)などが挙げられます。
借り入れの目的
注意しなければいけないのが、創業時の借り入れは機器・機材・備品の購入と設計・施工費用に対するモノだけになります。つまり、運転資金の名目での借り入れも原則不可です。
また、物件の初期契約費用に対する借り入れもできないため、自己資金から捻出することになります。そのため、自己資金は余裕をもって確保しておくことが大切です。
借り入れ先の金融機関の選び方
2千万円以上の借り入れをする場合は、主に「日本政策金融公庫」と「地方銀行・地方信用金庫」の2社以上からの借り入れをするケースが多いです。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、政府系の金融機関であり、動物病院を開業する際は借入を申し込むケースが多いです。約2〜3週間で融資の決定が完了するため、他の金融機関よりも早いです。
地方銀行、地方信用銀行
開業先のエリアにある地方銀行あるいは地方信用金庫を選ぶのがよいでしょう。約1ヶ月〜1ヶ月半ぐらいで融資の決定が完了します。
ノンバンクからの借り入れ
リース会社などのノンバンクが融資を行っている場合もあります。日本政策金融公庫や地方銀行に比べると金利が高くなりますが、融資実行が比較的早く、通りやすい傾向にあります。
借り入れ時に必要な資料
銀行によっても必要書類が異なることがありますが、主に以下の書類を準備するとよいでしょう。獣医師が開業する場合の必要書類を列挙しています。
~ 必要な資料一覧 ~
- 事業計画書
- 3か年シミュレーション
- 創業計画書(日本政策金融公庫の書式は他の銀行でも活用可)
- 個人証明書(獣医師免許証、運転免許証など)
- 物件の賃貸契約書(契約書、図面)
- 確定申告書3期分
- 固定資産税納税通知書(自宅、不動産投資分などがあれば)
- 資本金が確認できる通帳
- 機器・機材、設計・施工の見積もり
特に1.事業計画書、2.3か年シミュレーション、3.創業計画書の準備は重点的に行うことで金融機関の担当者にアピールすることができます。
事業計画書の内容
事業計画書は、ご自身がどのような動物病院を作りたいかを他者に伝えるための資料になります。パワーポイントで作成すると、より伝わりやすくなります。事業計画書に記載する内容は以下になります。
🗒️事業計画書の記載内容🗒️
- 動物病院業界の特性と時流
動物病院の案件を担当したことがない金融機関担当者のほうが多いです。よって、動物病院業界を知らない方にも伝わるように、動物病院業界がどのような状況にあるか記載しておくとよいでしょう。具体的には、小動物診療所の件数の推移、飼育ペット数の推移や動物関連サービスへの支出推移などです。 - ご自身の略歴
ご自身の経歴も書いておきましょう。金融機関の担当者は、借主個人が社会的に信用できるのかも重視していきます。出身大学、職歴、得意科目などご自身の経験も記載しましょう。 - 事業構想
事業構想は病院のコンセプト、開業への思い、マーケティング戦略などを記載していきます。金融機関担当者が、開業後に病院が軌道に乗るイメージをもてるよう作成していきましょう。 - 商圏調査
開業する立地の商圏調査をしましょう。商圏調査を実施するためには、専用のシステムで分析する必要があるため、外注しなければいけません。商圏調査によって、商圏内の人口、世帯数、年齢、年収などが数値で分析できます。 - 競合調査
周辺に動物病院が何件あり、どのような病院なのか把握することが重要です。その際には診療時間、休診日、診療科目、設備、料金設定、採用条件、クチコミなどの情報をホームページでわかる範囲で調査しましょう。これにより、ご自身の病院の診療時間や休診日設定のよい参考になります。
事業計画書を作成することで、事業構想がどんどんアップデートされることもあります。今後の開業を真剣に考える上でも事業計画書はぜひ作成しましょう。
3か年シミュレーションの内容
開業1か月目から36か月目までの業績の予測をシミュレーションします。エクセルデータで作成しましょう。1日の診察件数、1件当たりの診療単価、診療日数から予測売上を算出します。
また、以下の項目もシミュレーションに組み込みましょう。
~ シミュレーションに必要な項目一覧 ~
- 原価 ※総売り上げの25%と想定
- スタッフ給与
- スタッフの社会保険料
- スタッフのボーナス
- 院長の給与
- 院長の社会保険料
- 地代家賃
- 広告宣伝費
- 減価償却費
- その他販管費
- 営業利益
- 返済
- キャッシュフロー
開業当初はキャッシュフローが命綱です。キャッシュフローとは実際の現金の出入りのことであり、口座の残高を増やしていくことがカギとなります。また、シミュレーションを作成する際は、あくまでも最低限達成できると想定される数値計画を作成しましょう。
創業計画書の内容
創業の動機、経営者の経歴、大まかな必要資金と調達方法などが1枚にまとまった資料のことです。
日本政策金融公庫から借り入れする場合は、創業計画書の指定のフォーマットを提出します。他の金融機関からの借り入れ時も同じ資料を提出しても問題ありません。
※地方銀行によっては、日本政策金融公庫の創業計画書フォーマットの提出を求められることがあります。
まとめ
金融機関担当者への借り入れ相談は、初めて外部の方にご自身の病院のコンセプトや開業への思いを伝える場になります。ご自身の病院づくりへの評価を受けられる貴重な機会になりますので、資料準備のために労力をかけていくことが大事になってきます。ぜひしっかりと借り入れの資料づくりなどの準備に向き合っていただければと思います。
監修者プロフィール
ねこのタミ 代表取締役 / 開業・経営アドバイザー 辻 建三氏
立命館大学経済学部卒業。経営コンサルティング会社の医療グループ内の中途社員では、最速且つ初のチームリーダーに昇格。動物病院チームを立ち上げ、クライアント先の業績を平均で120%伸ばしており、持続安定的な病院経営づくりのコンサルティングを実施。自ら動物病院を開業し、そこから得たノウハウで開業・経営アドバイザーを実施。