動物病院のコンセプトが決まれば、コンセプトに合った飼い主様の層がいるエリア候補がいくつか絞られてきます。この際、「開業立地をどこにするのか?」が極めて重要です。
もし、アクセスしにくい場所、人口(飼育動物)があまりにも少ないエリア、目立たない場所などにあれば、飼い主様の集患が困難となり、開業後数年経っても売上が低迷するような事態にもなりかねません。
では開業後、多くの飼い主様に継続して通っていただける動物病院の理想の立地・物件はどのようなものか、お話します。
坪数を決める
まずはコンセプトを元に、病院の坪数を決めていきましょう。行う診療の幅によって大きく以下のような目安があります。トリミング施設を併設する場合はさらに坪数が必要です。
- 1次診療 :15坪~30坪
- 1.5次診療 :30坪~60坪
- 2次診療 :60坪以上
必要以上に広いスペースの物件にすると、診療オペレーションやスタッフや飼い主様の導線が非効率になることもあります。開業後しばらくしてから、獣医師や看護師を増員や高度診療まで拡大することを想定しているのであれば、ある程度余裕のある坪数を想定した方が良いでしょう。しかし、坪数が大きくなれば、家賃も比例して上がることになります。資本金等の資金面も考慮して坪数を確定していきましょう。
資金面を抑えたいが、今後高度診療などもできるように拡大したいという場合は?
その場合は、新規開業時は1次診療ができる30坪以下の物件を契約し、資金面の余裕がでた際に、さらに広い坪数の物件に移転&リニューアルするというアプローチもあります。
テナントにするか、一戸建てにするか?
費用を抑えたい場合はテナントでの開業がよいでしょう。一戸建ての場合は、物件建築費用となるため約8千万円以上の出費となります。
戸建てのメリットとしては、テナントより広いスペースが確保できること、増築改築がしやすいことが挙げられます。開業段階から、売上規模1億円以上を目指す動物病院づくりを検討されていれば、一戸建ての方が開業後の運営上融通が利くでしょう。
優良立地の条件について
「ご自身の慣れ親しんだ地元で開業したい」というご希望のある方もいらっしゃるでしょう。地元に貢献したいというお気持ちはとても大切ですが、統計的に動物病院が繁栄しやすい立地かどうかをしっかりと把握した上で決めていきましょう。
主に以下の項目を参考にしてみましょう。
〇・・・良い、◎・・・非常に良い
獲得人口 |
〇10,000人~12,999人/◎13,000人~ |
獲得ペット数 |
〇2,000~2,499頭/◎2,500頭~ |
人口増加率 |
自然増減率または社会増減率どちらかが増加〇/ 両方とも増加◎ |
平均年収 |
〇500~549万円/◎550万円以上 |
- 獲得人口:市町村人口÷競合動物病院件数=1件あたりの動物病院が獲得できる人数
- 獲得ペット数:獲得人口のうち飼育されている動物数
- 人口増加率:自然増減率(出生数の増減)、社会増減率(入転居の増減数)
- 平均年収:住民の平均世帯収入
基準をクリアしている立地ほど、将来的にも飼育頭数の増加が予想できるため、永続的な病院経営をイメージできます。
全ての項目で〇以上の評価となる必要はありませんが、基準を大幅に下回っているような立地の場合は注意が必要です。その際は専門性が高い病院や2次診療施設など、何らかの特色をもつ病院づくりをした方がよいでしょう。
優良物件の条件
立地選定が確定した後は、物件選定をしていきます。前提として、動物病院が開業するためには用途地域の要件をクリアする必要があります。動物病院が開業可能な用途地域は、以下です。ただし、基本的に物件の用途地域については不動産会社が調査してくれるので、ご安心ください。
- 第二種中高層住居専用地域 ※動物病院面積1,500㎡以内、かつ2階以下
- 第一種住居地域 ※動物病院面積3,000㎡以内
- 第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域
続いて以下の項目は吟味し、物件を選びましょう。
🗒️①周辺環境で気にするポイント🗒️
川や山などによる地理的分断要因は要注意です。河川の大きさなどにもよりますが、川の反対側からの来院は極端に減ることもあります。なるべくこのような分断要因は避けた方が良いでしょう。
🗒️②階数で気にするポイント🗒️
できれば1階が望ましいです。エレベーターのある2階も可能ですが、1階に比べると周辺からの視認性が悪く、大きなディスアドバンテージになります。
🗒️③駐車場で気にするポイント🗒️
東京、大阪などの大都心部以外は、車商圏であることが多いと思われます。できれば専用駐車場を確保できるようにすることが望ましいです。専用駐車場が確保できない場合でも、周辺にコインパーキングの利用ができるようであれば大きな問題にはなりません。
🗒️④近隣の競合する動物病院にも注意🗒️
ご自身が開業する病院が、一般的な犬猫動物病院か、専門性の高い病院かによって競合との距離の近さの重要性は変わっていきます。
都心エリアで一般的な犬猫病院であれば徒歩10分以上、競合病院と離れていれば影響は少ないでしょう。猫専門や特定の診療科目専門などの専門性が高い病院であれば、徒歩5分圏内ほどの近距離でない限り、それほど問題ありません。
※必ず競合病院との距離とご自身の病院のコンセプトの違いなどを調べるようにしましょう。
🗒️⑤駅からのアクセスについて🗒️
東京、大阪などの大都心部以外は、車商圏であることが多いと思われます。よって、車商圏であれば駅からの距離の近さを考慮しなくても問題ありません。その代わりに、車でのアクセスの良さや周辺道路の広さを加味しましょう。大都心部で車商圏でない場合は、電車や徒歩でのアクセスも加味しなければいけません。
物件のオーナーが動物病院の入居を断るケースも
用途地域をクリアしていたとしても、物件のオーナーが動物病院の入居を断るケースが比較的多く見受けられます。理由は、動物の異臭や鳴き声による騒音、入院による夜間の人の出入りを快く思わないということが多いでしょう。ただし、異臭や騒音は設備工事によっては対策が可能ですので、その点をしっかりとオーナーに伝えることで了承を得られることもあります。
不動産会社のリサーチ・内見
物件の条件(想定家賃、坪数、駐車場の有無など)が確定した状態で、不動産会社にアプローチしていきます。開業場所のエリアをカバーしている地元の不動産会社へ連絡して物件を調べてもらうようにしましょう。また、不動産会社は最低でも15件以上は連絡を行いましょう。そのうち、親身になってリサーチしてくれる会社は3~5件です。それらの不動産会社に物件を紹介してもらい、内見は最低でも10件は行うようにします。10件内見して、やっと理想に近い物件が1~2件程に絞ることができるようになるでしょう。
契約前に現地調査をする
物件契約前に、設計・施工会社に現地調査をしてもらうこともおすすめします。現地調査をしてもらうことで、設計上のリスクなどを事前に把握することができます。
家賃相場
エリアによっては、坪単価が平均より高く、家賃が高額になりやすいエリアもあります。物件の築年数などの条件によっても家賃が変わりますが、妥当性については不動産会社などに相談するようにしましょう。
物件の契約
理想的な物件が見つかれば、契約に進みます。契約時は、契約後の家賃とは別に、初期契約費用(保証会社への保証料も含む)が発生します。物件によっても異なりますが、初期契約費用は3~6か月分の家賃の金額となることが多いです。追加で保証会社への保証料が発生します。開業までに空家賃が発生するため、物件が見つかった後はできるだけ早期にその後の開業準備を進めていきます。
空家賃のフリーレント交渉
契約後、開業までの数か月間は、空家賃(からやちん)が発生することになります。この期間中の家賃を無償にしてくれるように(フリーレント)不動産会社に交渉してみましょう。
1~1.5か月分の家賃をフリーレントできれば、開業資金にも余裕がでます。
初期契約費はご自身の自己資金から
原則、物件の初期契約費用は金融機関から借り入れをすることはできません。よって、初期契約費は自己資金から捻出することになります。この時点で自己資金が減ることになるので、自己資金はなるべく多く確保しておくことをおすすめします。
監修者プロフィール
ねこのタミ 代表取締役 / 開業・経営アドバイザー 辻 建三氏
立命館大学経済学部卒業。経営コンサルティング会社の医療グループ内の中途社員では、最速且つ初のチームリーダーに昇格。動物病院チームを立ち上げ、クライアント先の業績を平均で120%伸ばしており、持続安定的な病院経営づくりのコンサルティングを実施。自ら動物病院を開業し、そこから得たノウハウで開業・経営アドバイザーを実施。