エアコンを使っている際に換気を行うと、エアコンで調節された空気が外に出てしまうため、室温を戻すための負荷が大きくなり、その分、電気代も増えてしまいます。
しかし、全熱交換器を活用することで、エアコン使用時の換気と空調負荷低減による省エネを両立することができます。全熱交換器は、屋内の空気を入れ換えながらエアコンの空調機能をサポートするため、結果的に節電にもつながります。
本記事では、全熱交換器を利用した換気と省エネの関連性や、使用時の注意点を解説します。エアコンが必須となる時期も屋内の空気をきれいに保ちたい方は、参考にしてみてください。
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■この記事でわかること
- 換気と省エネを両立する方法
- 全熱交換器の仕組みや効果
- 全熱交換器を導入する際の注意点
▼目次
そもそも換気と省エネは関係があるの?
換気(室内の空気の入れ替え)が省エネにつながるのは、「冷暖房設備(エアコン)を使っている場面での換気方法」がポイントになります。
そもそも、エアコンを使用しているときは、換気をできるだけ避けたいと感じる方も多いでしょう。しかし、エアコンの使用中であっても室内の空気の入れ換えは必要です。これは、エアコンが室内と室外の空気を入れ換えて、温冷風を出しているわけではないためです。
エアコンは、部屋の中の空気を吸い込んで、その空気の温度を変化させて再び室内に排出しています。つまり、換気をしないままでは、食べ物の臭いやタバコなどの汚れた空気が部屋にたまっていく一方です。
換気しない状態が続くと、室内には二酸化炭素やハウスダストのような汚染物質も滞留してしまうため、エアコンを使う季節でも定期的な空気の入れ換えを行うことが大切です。
しかし、窓の開放による一般的な換気方法では、せっかくエアコンで冷やした空気・温めた空気が外に逃げてしまいます。室内に外気が入ることで、エアコンの設定温度と室温に差が生じるため、空調設備への負荷が大きくなり、エネルギー使用量が増えてしまうのです。
そこで鍵を握るのが、「全熱交換器」の活用です。全熱交換器は、換気の際に捨てられてしまう室内の涼しい空気や暖かい空気の熱を回収して、再利用するため、空調の負荷を抑えることができ、結果的に省エネにつながります。
換気方法は大きく以下の3種類に分けられます。上述した窓を開けての換気はいわゆる自然換気に分類されますが、全熱交換器は機械によって換気(給気・排気)を行う第1種換気に該当します。
種類 |
特徴 |
第1種換気 |
・給気と排気を機械で行う方式。 ・換気のコントロールがしやすい。 ・高気密で高断熱の建物に適している。 |
第2種換気 |
・給気を機械、排気を自然(換気)で行う方式。 ・排気は自然任せのため、給気の効率が落ちる場合もある。 ・クリーンルームなどで使われている。 |
第3種換気 |
・給気を自然(換気)、排気を機械で行う方式。 ・締め切った空間では排気の効率が落ちる場合もある。 ・トイレやキッチンで使われている。 |
それぞれの特徴によって向き不向きがあるため、目的やシーンに合わせて換気方法を使い分けるのが望ましいといえます。
換気と省エネの両立には全熱交換器がおすすめ
前述で触れたとおり、安定的な換気と空調負荷低減による省エネを両立するには、全熱交換器の活用がおすすめです。ここでは、全熱交換器の特徴とその省エネ効果について詳しく解説します。
全熱交換器とは
全熱交換器とは、排気時に外に出す室内の涼しい空気・暖かい空気の熱を回収して、給気した空気に再利用することで、換気の際の温度変化を抑えられるシステムです。換気時の室内の温度変化も少なくし、効率よく換気ができるため、省エネかつ快適な室内環境を保てます。
また、全熱交換器は温度と湿度の調整が可能であり、気密性が高く換気が難しい建物でも、室内の空気を新鮮な空気と入れ換えられるのが特長です。
全熱交換器の省エネ効果
全熱交換器は、空調負荷の約3割を占めるとされている「外気負荷」の低減に役立ちます。これは、全熱交換器の仕組みによって排気側から給気側に移動した熱量を再利用できるため、換気によって失われてしまう室内の空調エネルギーを抑えられることが理由です。
例えば、次のような状況で暖房を使用していると仮定します。
- 外の温度:0℃
- 室内温度:20℃
このシチュエーションで部屋の換気を行なった場合、通常であれば0℃の冷たい空気が室内に流れ込んでくるでしょう。しかし、全熱交換器を活用すれば、排気の空気の熱を回収し、給気の空気に戻すため、15℃程度の空気が入ってくるようになります。
結果として、エアコンが設定温度まで室温を戻そうとする負担を軽減でき、運転にかかるエネルギーの削減が可能です。空調設備の負荷が減り、適切な容量のものへダウンサイジングも検討できるようになれば、さらなる省エネ効果を狙えるでしょう。
■熱交換器による金額・回収計算
また、全熱交換器の空調負荷低減は、電気代にもよい影響があります。上グラフは、第1種換気(全熱交換器使用時)と第3種換気(通常の換気扇使用時)において、熱交換器による金額・回収計算(年間)をシミュレーションしたもの(※)です。
地域や利用状況によっても異なりますが、特に札幌や仙台など冬場の寒さが厳しいエリアでは、暖房負荷の軽減効果が見込めます。北海道や東北ほど気温が下がらない東京の場合であっても、冷房負荷を軽減できることがわかるでしょう。
このように、冷暖房使用時の電力消費量を抑えることは、支出金額(電気代)の削減にもつながります。
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※シミュレーションの算出方法について
〈算出条件〉 ①暖房期間・・・札幌9/28~5/28、仙台10/17~5/22、東京11/6~4/13 ②冷房期間・・・札幌7/27~8/28、仙台7/5~9/8、東京5/30~9/22 ③空調設定・・・暖房20℃ 50%以上、冷房27℃ 60%以下運転時間8〜20時(12時間) ④外気温湿度・・・拡張アメダスデーター ⑤空調方式・・・札幌ヒートポンプエアコン(冷房・除湿)、灯油ボイラー(暖房)、加湿器 仙台ヒートポンプエアコン(冷房・除湿)、灯油ボイラー(暖房)、加湿器 東京ヒートポンプエアコン(冷房・除湿・暖房)、加湿器 ヒートポンプエアコン APF 4.9、灯油ボイラー COP 0.821、加湿器 15.7Wh/L(気化式加湿器) ⑥換気機器・・・24時間連続運転 (全熱交)FY-500ZD10(H2ノッチ) (非熱交)FY-18WCF3(弱ノッチ) ⑦電力料金目安単価 31円/kWh(税込) ⑧灯油単価 120円/L※実際の効果はお客様のご使用条件により異なります。
全熱交換器を利用する際の注意点
全熱交換器は、あらゆるシチュエーションにおいて省エネ効果が期待できるわけではありません。季節や外の温度によっては、活用しなくてもよい場合があります。導入後の後悔を防ぐため、全熱交換器の注意点も確認しておきましょう。
気密性の低い建物では効果が出にくい
全熱交換器は、気密性の低い建物では効果が出にくいことを念頭に置いておく必要があります。気密性が低い建物は、室内に隙間が多いことで常に空気が漏れると同時に、外気も入ってきやすい状態です。
つまり、熱交換器以外から空気の出入りがあると、その機能を十分に発揮できない可能性があります。対して、断熱性や気密性が高い建物では効果を実感しやすくなるでしょう。
ニオイが発生するスペースでは使えない
全熱交換器は、強い臭いが発生するスペースでの利用にはあまり向いていません。室内から取り込んだ空気の温度や湿度を回収しながら換気を行う仕組みのため、回収した空気のニオイも同時に室内へ戻してしまうためです。
よって、トイレや喫煙スペースなど、ニオイが強い場所に全熱交換器を設置するのは避けたほうがよいでしょう。こうした気になるニオイの発生しやすい場所には、全熱交換器よりも換気扇などの機器が向いています。
設置スペースを確保する必要がある
全熱交換器を設置する際は、配管や熱交換機器のスペースを確保する必要があります。とくに天井埋め込み型の場合、建物の構造や他の配管・配線の状況も考慮しなければいけません。
なかには、設置が難しいケースや配置場所が限定されるケースもあります。もし天井埋め込みタイプの設置が難しいようであれば、壁かけタイプや床置きタイプの全熱交換器が選択肢になるでしょう。
空間の換気には全熱交換器の導入を検討しよう
全熱交換器は、室内の空気の熱を活用しながら空気を入れ換える仕組みであり、換気の際に発生する外気負荷を抑えられるのが特徴です。空気の温度・湿度のコントロールができるため、エアコンが設定温度まで室温を戻す際の負担を減らせます。
このため、高気密住宅や高断熱の建物では特に省エネ効果を期待できるでしょう。
全熱交換器は必ずしも導入が必須となる設備ではありませんが、換気と省エネを両立させたい場合には、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
パナソニックでは、全熱交換器含めた機器選定や換気・空調における設備設計に関するアドバイスを行なっています。空調設備に関してお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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