8月 6, 2024
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空調設備の基礎知識|必要な知識を押さえよう

現在全世界では、約30億台の空調機、冷凍機、ヒートポンプが稼働しているといわれています。人間らしい快適な環境を整えるためには、空調設備は不可欠な存在です。

また、資源エネルギー庁のデータによると、「空調」がオフィスビルにおける夏場の電力消費のうち、約半分の割合を占める結果となっています。そのため、世界的に叫ばれる脱炭素化においても、空調設備の消費電力削減が求められています。

設備 基礎知識_02
画像引用元:夏季の省エネ・節電メニュー 令和5年6月|資源エネルギー庁|経済産業省

人々が快適に過ごせる環境を整えながら消費エネルギーの削減に寄与するためには、適切な空調設備の導入や構築が重要です。そのためには空調設備がなぜ必要なのか、どのように取り扱うべきなのかを把握しましょう。

この記事では空調設備に関する基礎知識を紹介します。空調設備の導入や設計のために必要な知識として、ぜひ参考にしてください。

 

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 ■この記事でわかること

  • 空調設備の役割・必要性
  • 空調方式の種類
  • 空調負荷の計算方法
  • 空調設備のメンテナンス方法

 

空調設備の基礎知識

ここでは空調設備とは何か、なぜ必要なのか、導入する際にどのような点に注意すべきなのか、基礎知識をまとめました。

基礎知識1:室内の空気を整える本質的な重要性

「空気」は食べ物や水と同様に人間が生きていくうえで欠かすことができません。

人が1日で摂取するものを重量比で比較すると、空気が83%、食べ物が7%、飲み物が8%となっています。さらに、摂取する空気のなかでも、室内で過ごす時間のなかで摂取する「室内空気」が57%と大半を占めます。

そのため、空調設備を活用して室内の空気を調整することは、体調を整えるうえで非常に重要です。

パナソニックは空気の7要素(温度・湿度・気流・清浄・除菌・脱臭・香り)に対して、それぞれの分野で高い技術力を活かしたソリューションを提供しています。

 

 

基礎知識2:空調設備の役割・必要性

空調設備とは建物内の「空気調和」を行う設備を指し、建築物衛生法において以下の機能を備えるものだと定義されています。


  • 温度調整
  • 湿度調整
  • 空気の清浄化(換気)
  • 気流の調整


空調設備の目的は、これらの要素で空気を調和させ、建物内に快適な空気環境をつくることです。上記に加えて業務用の空調設備では、5つ目の要素として「圧力のコントロール」も役割として含まれます。

また、空調設備は目的によって下記のようにそれぞれ分類が異なります。


  • 「保健空調」:労働環境の維持・居住空間の快適性向上など人に対する空調を目的とする
  • 「産業空調」:物品の品質管理や動植物の生育環境など人以外の環境の空調を目的とする

 

基礎知識3:空調設備とエアコン・換気設備との違い

空調設備と聞くとエアコンをイメージする人も多くいますが、それぞれ役割が異なります。ここでは空調設備とエアコン、換気設備がそれぞれどのように違うのかを解説します。

空調設備とエアコンの違い

エアコンの正式名称は「エアーコンディショナー」といい、空気を調和するための設備を指します。

エアコン自体は室内の温度調整、湿度調整、気流調整は行うことができますが、建築物衛生法で定義されている「空気の清浄化(換気)」は含まれません。そのため、エアコン単体では空調設備として分類されないことになります。

空調設備としての条件を満たすためには、エアコンと換気設備の両方を備えている必要があります。

空調設備と換気設備の違い

換気設備は、菌やホコリといった汚染物質で汚れた室内の空気を外に排出し、室外の新鮮な空気を取り入れることで、室内の空気を清浄化するための設備です。

シックハウス症候群や一酸化炭素中毒のリスクを防ぐためにも必要な設備で、原則としてすべての建物に換気設備の設置が義務付けられています。換気設備には、大きく以下の2つに分けられます。


  • 自然換気:窓やドアといった機械的な手段を用いない換気方法
  • 機械換気:換気扇など機械的な手段を使う換気方法

ただし、エアコン同様に換気設備単体では空調設備に該当しないため、空調設備として機能させるにはエアコンと併用する必要があります。

 

基礎知識4:業務用エアコンと家庭用エアコンの違い

エアコンには「業務用エアコン」と「家庭用エアコン」の2種類があります。業務用エアコンとは、オフィスや店舗、施設など、広い空間の空調を行うために大きな出力を備えたエアコンを指します。

一方、家庭用エアコンは一般家庭での空調を目的としたエアコンです。壁掛け型のルームエアコンが一般的ですが、天井や壁に埋め込んで設置するハウジングエアコンと呼ばれるタイプもあります。

業務用エアコンと家庭用エアコンの違いは以下の表のとおりです。

 

業務用エアコン

家庭用エアコン

冷暖房能力

1.5~12馬力程度

0.5~3馬力程度

風量

中~小

電源・電圧

単相200V/三相200V

単相100V/単相200V

タイプ

・天井埋込カセット形

・天井埋込ダクト形

・天井吊形

・壁掛形

・床置形

壁掛型が主流だが、天井や壁に埋め込んで設置するハウジングエアコンもある

工事

大規模になり設置に時間がかかることもある

業務用に比べて小規模


事業所に設置するエアコンだからといって、必ずしも業務用エアコンである必要はありません。同様に住宅にも家庭用エアコンではなく業務用エアコンを設置することもできます。

しかし、目的に合わないエアコンを選んでしまうと、空気の温め過ぎや冷やし過ぎにつながったり、反対にパワー不足につながったりすることになり、適切な空調を行うことができません。そのため、エアコンを選ぶ際は部屋や事業所の規模や広さ、用途などによって慎重に検討することが大切です。

基礎知識5:空調設備の構成

空調設備は、以下の3つの装置によって構成されており、これらが組み合わさることで空気の調和ができます。それぞれの装置や設備の役割は下記のとおりです。

熱源装置

空気を加熱・冷却するための熱を作る装置。

ボイラーやヒートポンプ、冷却塔、冷却水ポンプ、給水設備などがある

熱搬送設備

熱源装置で作った熱を空気調和設備へと運ぶ設備。

配管、ダクト、ポンプ、送風機などがある

空気調和設備

空気の浄化や、温度・湿度の調整を行いその空気を送り出す設備。

コイル、加湿器、除湿器、エアフィルターなどがある

 

基礎知識6:空調方式の種類

設備 基礎知識_03
空調設備には、大きく分けて「セントラル空調方式」と「パッケージ方式」の2種類があります。それぞれの特徴を理解したうえで、設置場所や用途に合った方式を選びましょう。

セントラル空調方式(中央空調方式)

セントラル空調方式は、ビルなどの建物全体の空調を一元的に制御する空調方式です。冷凍機やボイラーなどの熱源機を中央機械室や管理室に集め、冷水・温水を建物内に循環させることで調温を行います。

セントラル空調方式には以下のようなメリットがあげられます。


  • 建物内の温度を一括で管理するため、冷暖房の効率が高く、エネルギーコストの削減につながる
  • 建物内の温度を均一に設定できるため、部屋・フロアによって温度差が出ない


ただし、部屋やフロアごとに柔軟な温度設定ができないことや導入費用が高額になりやすい点には注意が必要です。省エネ効果が高く部屋ごとに温度差が出にくいことから、大規模なオフィスビルや総合病院といった施設を中心に導入されています。

 

パッケージ方式(個別空調方式)

パッケージ方式(個別空調方式)は、部屋・フロアごとに空調設備を設置するタイプの空調方式です。中央熱源を設けず、熱源と空調機が一体化されているか、室内機・室外機を冷媒配管で接続する形式となっています。パッケージ方式のメリットは以下のとおりです。


  • セントラル空調方式とは違い、個別の空調設備をそれぞれ操作することができるため、部屋・フロアごとに温度や風量の設定を柔軟に調整可能
  • 部屋の用途や使用状況によって設定を変更することで環境を最適化できるほか、電源のオンオフも個別に行えるため省電力化にもつながる

このように部屋の用途や使用状況によって設定を変更することで環境を最適化できるほか、電源のオンオフも個別に行えるため、省エネ効果が見込めます。

デメリットは、部屋・フロアごとに個別に空調が運用されるため、使用状況によっては無駄にエネルギーを消費してしまう可能性があることです。

個別に温度設定ができることから、フロアや部屋ごとに営業時間や求められる温度設定が異なる中小規模のテナントビルに多く導入される方式です。

 

基礎知識7:空調設備のメンテナンス方法

定期的にメンテナンスを行うことで、空調設備の性能や快適性をキープできます。ここでは空調設備のメンテナンスが必要な理由と、メンテナンス方法を紹介します。

空調設備のメンテナンスが必要な理由

長期にわたって空調設備を適切な状態に保ち、快適な室内空間を作るためには、定期的な点検や清掃、消耗した部品の交換といったメンテナンスが欠かせません。メンテナンスが必要な理由は、以下のとおりです。


  • 電気消費量の削減によるランニングコストの低減
    空調設備のフィルターや内部にホコリや汚れが溜まっていると、本来の性能を発揮できなくなり、余分な電力を消費することにつながります。定期的なメンテナンスにより、結果的にランニングコストを低減することが可能です。
  • 故障リスクの最小化
    定期的なメンテナンスにより、故障リスクを最小化し、耐用年数より短い期間で使えなくなってしまうリスクを防止します。
  • 快適性の維持・向上
    空調設備が本来のパフォーマンスを発揮できることで、快適性を維持することができます。また、メンテナンス不足によるカビの発生なども予防します。

 

点検・メンテナンス方法

空調設備の点検を自分で行う際は、以下の3点を目視でチェックしましょう。


  • 室外機:破損や腐食、作動時の異音や振動がないか
  • 室内機:破損や腐食、作動時の異音や振動、また異臭がしていないか
  • 空調設備全体:空調の効きが悪い、電源を入れても作動しない、エラーが表示されるなどの事態が起きていないか


万が一点検中に異常が見つかった場合は、早急なメンテナンスが必要です。また、こうした点検や簡易的な掃除であれば自分でも行うことができますが、より詳細な点検や適切なメンテナンスを行うには、専門家への依頼がおすすめです。

パナソニックでは、空調設備の定期点検・メンテナンスサービスも行っています。詳しくは下記のページで紹介していますので、こちらも参考にしてみてください。


 

基礎知識8:空調負荷の必要性・計算方法

空調設備を選ぶうえで重要な指標となるのが「空調負荷」です。空調負荷を知ることで、冷暖房を快適に利用でき、空調機の劣化も抑えられます。ここでは空調負荷の必要性や計算方法を見ていきましょう。

必要性

空調機器を選ぶ際は、部屋の用途や広さなどを加味したうえで、必要となる馬力について考える必要があります。その際に用いられるのが空調負荷計算です。

空調負荷計算を行うことによって、空調設備を設置する空間に対して、冷暖房が適切に効果を発揮できるか知ることができます。また、空調負荷計算を行わないと、以下のような事態を招く可能性があります。


  • 冷暖房の効果に過不足が出る
    冷暖房機能のスペックに過不足があると効きが悪くなったり、逆に効きが良すぎたりと不快感に繋がります。


  • 空調設備の劣化が早まる
    冷暖房の能力が不足していると、常時高出力で運転する必要になるため、エアコンへの負担がかかり、結果的に故障の原因となります。

  • 無駄な電力を消費する
    冷暖房機能スペックが不足した状態による常時の高出力運転は、無駄な電力の消費や余計な電気代の発生につながります。

このように空調負荷設計は空調設備の導入において非常に重要です。

 

計算方法

空調負荷は、以下の計算式でおおよその目安を算出できます。


 熱負荷(W)=単位熱負荷(W/m2)×室面積(m2)


また、パナソニックでは、「一般事務」「一般商店」「喫茶・理容」「食堂」の4つの分類における単位熱負荷の目安を設定しています。それぞれの目安は下記のとおりです。

 

分類

一般事務

一般商店

喫茶・理容

食堂

1m² あたり冷房負荷の目安

115~170W/m²

155~230W/m²

230~290W/m²

230~370W/m²


参照元:基礎知識 | パッケージエアコン | 空調・換気設備 | 電気・建築設備(ビジネス) | Panasonic

上記の式をもとに計算することで、熱負荷をW単位で算出できるため、それに応じて必要な能力を持つ空調機器が選定できます。ただし、実際の熱負荷の値とは異なる可能性があるため、あくまでも目安として活用しましょう。

空調負荷の計算方法については以下のページでも解説しています。詳しく知りたい方はこちらもご参照ください。

 

基礎知識9:空調設備の選定方法

空調設備を選ぶ際には、設置場所の広さや用途に合わせて「馬力」や「機能性」をチェックしましょう。ここではそれぞれの選び方を紹介します。

馬力

前述のとおり、空調設備を選定する際には、まずは空調の能力やパワーを示す単位である「馬力」が重要です。ただし、馬力は大きければ大きいほどよいというものではありません。使用する場所に対して過不足のない馬力の空調設備であるかどうかが大切です。

適切な馬力の空調設備を選ぶことで、快適性の向上や電気代の最適化、早期故障の防止にもつながります。

ただし、使用する場所の面積が同じでも、空調を設置する場所や設置数、日当たり、照明、建物内の人数、熱を発する業務用機器などの環境用途や業種によって、必要となる馬力は異なります。

例えば、一般的な事務所と、ドライヤーやパーマ機器のような熱を発する機器がある理容室・美容室、厨房で火を扱う飲食店では、前述した空調負荷が変わってくるのです。

空調馬力に関しては、以下のページで詳しく解説しています。


目安の馬力はそれぞれの業種に対して決められていますが、あくまでも基準の一つであり、参考値となります。適切な馬力を知りたい方や機種選定にお悩みの方は、プロに相談して見積もりを取ると安心です。

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機能性

空調設備に搭載されている機能は機種によって異なります。そのため、用途や設置場所、環境に応じて必要な機能を搭載した機種を選ぶことが大切です。以下の表はパナソニックの空調設備に搭載されている機能の一例です。

ナノイーX

・花粉やアレル物質を抑制

・加齢臭や汗、尿、便といった気になるニオイを脱臭


■以下のような空間・目的におすすめ

・介護施設など、多くの人が集まる空間


■本機能が搭載されている機種


・オフィス・店舗用エアコン

4方向天井カセット形2方向天井カセット形天井吊形壁掛形床置形(スリム形)


・ビル用マルチエアコン

4方向天井カセット形2方向天井カセット形1方向天井カセットスリム形天井吊形T4U

人感センサー・床温度センサー(※)・湿度センサー

・人の動きや活動量に応じて節電運転


■以下のような空間・目的におすすめ

・人が不在になる時間帯がある(クリニックの待合所など)

・常に快適な空間を提供したい

・電気代を節約したい


■本機能が搭載されている機種

・オフィス・店舗用エアコン

4方向天井カセット形2方向天井カセット形高天井1方向カセット形1方向天井カセット形天井ビルトインカセット形ビルトインオールダクト形天井吊形壁掛形床置形(スリム形)


・ビル用マルチエアコン

4方向天井カセット形2方向天井カセット形天井吊形T4U壁掛形


※床温センサーは4方向天井カセット形のみに搭載

サーキュレート機能

・空気をかき混ぜることにより、素早く快適温度にする(暖房運転)


■以下のような空間・目的におすすめ

・空気のムラができやすい大規模なオフィスや店舗など

・電気代を節約したい(設定温度への到達スピード短縮)


■本機能が搭載されている機種

4方向天井カセット形(オフィス・店舗用エアコンビル用マルチエアコン共通

熱交気調システム

・換気時に排出する汚れた空気に含まれる熱を給気時に回収して室内に戻す機能

・熱回収によって冷暖房のコストを抑えるとともに、換気時に外から冷たい空気や生温い空気が侵入を防ぎ不快感を抑制する


■以下のような空間・目的におすすめ

・冷暖房のコストを抑えたい

・換気時も快適な空間を保ちたい


■本機能が搭載されている機種

熱交換気ユニット(空調機器と組み合わせて設置)

 

まとめ

適切な空調設備を導入するためには、これまで紹介したような空調設備に関する幅広い基礎知識が必要です。特に、空調方式や空調負荷を踏まえた適切な馬力を持つ機種、用途や環境によって必要となる機能など、機種を選定するためには多角的な視点が求められます。

それぞれの要素は複雑に関連しているため、知識が不十分なまま建物の状況や環境に合わせて空調設備を選ぼうとすると、難易度が高いかもしれません。

パナソニックでは、機種選定や各種のシミュレーションを含めた、空調設備の設計を無料でサポートしています。快適性と省エネルギー性の両面を満たす空調設備を施主様に提供したいとお考えの方は、まずは現状の課題など含めてご相談ください。

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