1月 17, 2024
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今年の干支にちなんだ「鯉の中毒」について

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本年もどうぞよろしくお願いいたします。今年の辰年、実在しない動物が干支となっております。
立身出世のことわざとして知られる「鯉の滝登り」は、もとは中国の『後漢書』に記載されている伝説が基になっています。魚は黄河の竜門という激しい流れの滝をさかのぼると、天空に舞い上がることで、龍に変身するという伝説で、鯉はこの竜門を登ることができる魚と言われます。そうした縁起の良さもあるのか、男の子の節句では現代でも鯉のぼりの風習があります。  
また、鯉が漁獲される地域では、”鯉こく”などの郷土料理が供されます。しかし、鯉の胆嚢には毒性があり、まれに人や動物に中毒を起こします。

そこで、今回は干支にちなみ、鯉の毒性についてご紹介します。


 


目次


 

鯉の中毒 

フグなどの有毒魚種や貝毒などによる食中毒は多いですが、淡水魚である鯉の中毒は、あまり知名度がありません。日本においても昭和末の報告はありますが、近年ではありません。

 

臨床徴候は?

人では鯉の洗い、鯉こく、味噌煮を喫食し、嘔吐、痙攣、麻痺、歩行困難、言語障害などを起こしたと報告されています。鯉は、鮮魚店や魚市場のほか、釣り堀で釣ったもので、全て正常と考えられる個体であったと報告されています。加熱料理でも中毒を発症しています。症状は30分〜6時間以内に発症し、約75%は3時間以内に発症しています。1尾の鯉を1家族または少人数で喫食した8事例(人)では、92%の発症率となっていると報告されており、鯉による中毒が疑われ、証明するために、犬を用いて実験が行われました。

患者の食べ残りの鯉を犬に与えたところ、人と同様の症状を呈したことから、鯉に起因する中毒であり、犬に対する中毒性があることも明らかになりました。

 

 中毒物質は?

鯉の胆嚢の胆汁にはシプリノール(cyprinol sulfate)という胆汁酸の一種である物質が、他の胆汁酸よりも多く90%以上含まれており、マウスなど哺乳類で中枢神経系に毒性を示すことが明らかになっています。

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 犬猫での中毒症状と量は?

人の中毒事故を起こした鯉料理の試料を用いて、犬と猫で中毒症状を観察しており、どの程度の摂取が危険であるかについて、いくつかのデータが示されています。自然発生の中毒ではなく、n数も少なく、中毒量や症状を一般化させることはできませんが、犬や猫においては、痙攣や後肢の振戦などの神経症状が見られました。人の中毒事故で摂取した鯉の洗 いの量は平均50g/人で、同じ料理やその抽出物を犬や猫に実験的に与えた際の中毒症状が見られた量は、体重換算にすると犬の経口投与では7g/kg 、猫では腹腔投与で25g/kg相当でした。

犬での症状:経口で3頭に投与したところ、下記のような症状を示しました。

 

投与したもの、量

転帰

1(20kg)

生の内臓30g

2時間後に全身に痙攣、6時間後に呼吸困難で死亡

2(6kg)

鯉のあら約10g相当の液体(30ml)

投与後50分で痙攣を生じたが回復

3(13kg)

鯉こく95g

 摂取後1時間以内に軽度の痙攣、1時間程度で硬直、姿勢異常、異常な呼吸、歩様の乱れ、3時間で回復傾向が見られ始め10時間でわずかに痙攣が残るものの正常呼吸や、起立可能に  

猫(0.65kg ※年齢についての表記はなし、子猫の可能性)に16.6gの鯉料理からエーテル抽出物を得て腹腔内投与にて与えたところ、1時間で後肢の震え、流涎、不穏、嘔吐、起立不能、散瞳が発現しました。3時間で筋肉の硬直や震えは正常に戻り、4時間で瞳孔の大きさが正常に戻りました。しかし、10時間から24時間後も歩行の異常や起立姿勢の不安定さは継続し、完全に回復したのは5日後と記載されています。経口投与でのデータはなく、腹腔内投与であることから、実臨床での転帰は不明ですが、 猫では中毒症状が強く出る可能性があるため注意が必要です。

また、人においては鯉の胆嚢を生食することで、重篤な急性腎不全を生じ、死亡するケースも知られています。鯉やソウギョなどコイ科魚類の胆嚢には、滋養強壮、眼精疲労の回復などの効果があると信じられ、日本だけでなく中国や東南アジアで古くから服用されています。しかし、現代ではシプリノールなどによる強い毒性が明らかになったので、喫食は推奨されていません。

 

おわりに

上記の実験では、実際の中毒や犬猫での中毒実験は鯉の筋肉を用いた料理で、鯉の胆嚢に含まれるシプリノールは筋肉には分布しません。しかし、中毒事例17件のうち16件が家庭で調理されたものであり、調理の過程で胆嚢が破れて胆汁が筋肉に付着した可能性も考えられます。

文献によると、鯉の調理をする際は、苦玉とも呼ばれる 胆嚢を破らないように取り除いて行うように言われているとのことで、実際に鯉専門の料理店のHPでは、”苦玉をつぶさないよう注意する”と記載がありました。中毒を避ける先人の知恵にも科学的な裏付けがあるのだと感じました。

本記事著者の親戚の地域でも鯉料理を食べる文化があり、喫食したことがあります。しっかり調理された料理を楽しんで文化を残していきたいと思います。

 

 

参考

・武田由比子, et al. 鯉による食中毒の原因究明に関する研究. 食品衛生学雑誌, 1980, 21.1: 50-57_1.https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/21/1/21_1_50/_pdf

・毛利隆美, et al. コイの水溶性中毒成分としてのシプリノールについて. 食品衛生学雑誌, 1992, 33.2: 133-143. https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/33/2/33_2_133/_pdf

・自然毒のリスクプロファイル:魚類:胆のう毒 https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_05.html
 

 

 

 

監修者プロフィール

獣医師 福地可奈先生のプロフィール写真

獣医師
福地可奈

2014年酪農学園大学獣医学部卒業したのち、東京都の動物病院にて4年間勤務し犬や猫を中心とした診療業務に従事しました。現在大学院に在学しつつ、獣医師や一般の飼い主様に向けた動物の中毒情報を発信するなど臨床とは異なったアプローチで獣医療に貢献することを目標に活動しています。

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