近年、ペット向けCBD製品というものを目にするようになりました。麻薬成分は入っていないとしながらも、大麻草由来ということでハードルを感じている先生方もいらっしゃると思います。
各疾患・症状への有効性については今回の記事では取り上げませんが、犬にCBDを使用した際の安全性試験や副作用についてご紹介します。
目次
概要
大麻草には、テトラヒドロカンナビノール(THC)やカンナジビオール(CBD)などの数百種のカンナビノイドという物質が含まれています。THCは脳内のカンナビノイド受容体に結合して精神作用を発現するため、日本では使用が禁止されています。カンナビノイドとは、カンナビノイド受容体に結合する、大麻由来の生物学的活性がある化学成分のことです。
カンナビジオール(CBD)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビジオール(CBDA)は、大麻から抽出される非精神作用のカンナビノイドです。CBD製品は、人においては不安感の緩和、食欲増進、吐き気の緩和など、犬においては問題行動などに用いる試みがあるようです。CBDは非精神作用のみとされますが、低品質なCBD製品には精神作用を持つTHCが含まれることがあり、この場合、大麻による中毒を発現することがあります。
この記事では、ペットに対するCBDの安全性試験の結果について主にご紹介します。
物質
カンナビジオール(CBD)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビジオール酸 (CBDA)
CBDは分子量314.2g/molとなっています。
CBDの安全性試験の結果
項目 |
Stephanie McGrath Study(安全性試験①) |
William Bookout Study(安全性試験②) |
投与経路 |
経口投与(カプセルまたはオイル)、 経皮投与(クリーム) |
経口投与(オイル) |
投与頭数・期間 |
ビーグル30頭(6週間) |
ビーグル32頭(90日間) |
投与物質と量 |
CBD 10mg/kg/day または20mg/kg/day |
CBD 5mg/kg/day、 CBD + CBG、CBD + CBDA |
観察された有害事象 |
下痢(30/30)、嘔吐(6/30)、 耳介の紅斑(11/30)、ALP上昇(11/30) |
下痢(32/32)、ALP上昇(詳細不明)、一部で軽度の唾液分泌過剰(詳細不明) |
治療 |
下痢に対してメトロニダゾール投与 |
治療なし (有害事象は一過性で軽度) |
CBDに関する著者のコメ ント |
CBDは短期的にはよく耐えられたが、 長期的な影響にはさらなる研究が必要 |
CBDはよく耐えられ、 副作用は軽度かつ一過性であった |
・CBDに関する安全性試験①では下痢の治療としてメトロニダゾールが投与されました。著者らは、CBDによる有害事象の可能性がある一方で、試験のために犬を異なる環境で飼養したことなどの外部要因も関与しているのではないかと考えています。
・CBDに関する安全性試験②では90日間、5mg/kg/dayが犬に投与され、軽度の唾液分泌過多が見られましたが、重大な副作用とは解釈されませんでした。この試験では、治療が必要な症状は見られなかったとして、治療は実施されませんでした。
CBDの忍容量
犬において10~20mg/kg/dayの量は短期間の投与では使用が許容されるとしながらも、肝酵素の上昇が見られたことから、長期使用にはモニタリングが必要と結論づけています(安全性試験① )。
犬においてはCBDの認容量は5mg/kg/dayとされ、唾液過多や下痢などの有害事象も一過性であったとしています(安全性試験②)。
THCによる中毒(参考)
日本において、大麻は規制対象なので、諸外国のように飼い主のものを誤飲するといった症例は少ないと思われますが、CBD製品は一般の消費者がインターネットでも手に入れることができ、THC製品が混入している粗悪なCBD製品が無いとも断言できません。
CBD製品では、これまでの安全性試験の結果、重篤な有害事象はみられなかったということですが、参考までに、THCによる中毒の概略は以下の通りです。抑うつ、運動失調、嘔吐、尿失禁、瞳孔散大、過感度、唾液過多、徐脈などが含まれます。重症例では、発作や昏睡状態に至ることもあります。
THC中毒の治療
THC中毒に対する治療は輸液、体温管理などが有効とされます。
THCは分子量314.46g/molであり、理論上は活性炭に吸着すると考えられます。また、大量に摂取して30~60分、もしくは胃内にTHC含有物があると想定できる場合は、催吐処置が推奨されています。THCによる犬の中毒や治療については、別途成書などをご参考ください。
注意すべきこと
CBD製品は、適切な量で使用されれば忍容性が高いものの、個別の動物によっては軽度の副作用(唾液分泌過多など)が発生することがあります。また、THC製品が混入したものでは、THC中毒を発現する可能性もあることから、もし動物に使用する際は、製品の選定が重要になります。メーカーに対して、きちんと疑義が照会できるような信頼できる場所からの購入が推奨されます。また、CBD製品を摂取して体調が悪い動物が受診し、製品の品質が不明な際は、CBDによる有害事象なのか、THCの混入も考えられるのかを考慮する必要があります。
おわりに
犬猫の中毒は一緒に暮らす人の生活様式にも影響を受けるため、文化の違いなどが反映されます。2024年3月にドイツで報告された過去5年の犬の中毒の研究では、食品や殺鼠剤、薬剤など日本でも発生がある原因物質の他に、「recreational drugsが 5%」という記述もありました。recreational drugsというのは日本語では嗜好用薬物、快楽麻薬などと訳され、医師の監督なしに用いられる合法・非合法の薬剤を指します。これには、鎮痛剤・抑圧剤・興奮剤・幻覚剤のカテゴリがあります。
詳細な状況は分かりませんが、ドイツの中毒の報告では、犬の飼育される環境にこうした薬物があることで誤飲事故などが起こったのかもしれません。
ドイツで娯楽目的の大麻使用が合法化されたのは2024年4月1日からで、この論文が出た後のことです。人間の活動の変化はペットにも影響するため獣医関係者にとっても重要なことです。
日本において大麻は規制されていますが、CBD製品は合法的に使用できます。メタアナリシスの実施など信頼性の高いエビデンスが蓄積している状況ではありませんが、ある程度CBDの犬への安全性について明らかになっている部分も増えてきました。
今後、飼い主さんが自らネットなどで入手して使用する可能性もあるので、そういった際のコミュニケーションの一助となれば幸いです。
■参考
・①MCGRATH, Stephanie, et al. A report of adverse effects associated with the administration of cannabidiol in healthy dogs. Vet Med, 2018, 1: 6-8.
②BRUTLAG, Ahna; HOMMERDING, Holly. Toxicology of marijuana, synthetic cannabinoids, and cannabidiol in dogs and cats. Veterinary Clinics: Small Animal Practice, 2018, 48.6: 1087-1102.
③BOOKOUT, William, et al. Safety study of cannabidiol products in healthy dogs. Frontiers in Veterinary Science, 2024, 11: 1349590.
・KRGG, COMPOUND: C06972, https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?cpd_ja:C06972
・Golombek, P.; Müller, M.; Barthlott, I.; Sproll, C.; Lachenmeier, D.W. Conversion of Cannabidiol (CBD) into Psychotropic Cannabinoids Including Tetrahydrocannabinol (THC): A Controversy in the Scientific Literature. Toxics 2020, 8, 41. https://doi.org/10.3390/toxics8020041, http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20220323163306-513E6D60D9A4DEBA2934AC68C4AD79258939FB4B5B2B7978A2BD03C0AD9BBDD0.pdf
・De Briyne, N.; Holmes, D.; Sandler, I.; Stiles, E.; Szymanski, D.; Moody, S.; Neumann, S.; Anadón, A. Cannabis, Cannabidiol Oils and Tetrahydrocannabinol— What Do Veterinarians Need to Know? Animals 2021, 11, 892. https://doi.org/10.3390/ani11030892, http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20210720161942-DFA32AE7CACE419D40D919F5E8A934137E70006F26991AD47A11E1A40A371F52.pdf
監修者プロフィール
獣医師
福地可奈
2014年酪農学園大学獣医学部卒業したのち、東京都の動物病院にて4年間勤務し犬や猫を中心とした診療業務に従事しました。
2024年3月末、東邦大学大学院医学部博士課程の単位取得。春からは製薬企業に勤務しつつ、学位取得要件である博士論文の提出を目指して活動しております。
獣医師や一般の飼い主様に向けた動物の中毒情報を発信するなど、臨床とは異なったアプローチで獣医療に貢献することを目標に活動しています。
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