温熱環境とは、暑さや寒さを感じず快適に過ごせる温湿度環境のことです。また、人が健康に過ごすうえで重要な要素でもあります。
「この部屋、なんだかいつも寒い気がする」「夏は暑くて寝苦しい……」と感じるのなら、温熱環境が整っていない可能性があります。
この記事では、温熱環境の重要性や、整えるためのポイントを解説します。建物の断熱性や気密性、日差しの調整、換気、エアコン選びなど、具体的な対策方法も紹介しますので、温熱環境への理解を深める際の参考にしてください。
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▼目次
温熱環境について
まずはじめに、温熱環境の概要や、温熱環境を決める6つの要素について見ていきましょう。
温熱環境とは「人が快適に感じる温湿度環境」のこと
温熱環境とは暑くも寒くもなく快適に感じられる温湿度環境のことです。温度だけでなく、湿度や空気の流れといった複数の要素によって決められます。
温熱環境は建物内の快適性を大きく左右します。そのため、季節や気候、日当たりといった要素を十分に検討した建築設計や、空調設備設計が重要です。
温熱環境を決める6要素
温熱環境を決める要素には、環境由来の4要素と、人由来の2要素、合わせて6つの要素があります。具体的には以下のとおりです。
【環境由来の要素】- 空気温度:室内の温度であり、通常気温と呼ばれる。温度計で示される値
- 放射温度:暖房などの赤外線が伝達する温度。暖房で暖められた壁や床、天井などの物体から放射される温度であり、輻射温度とも呼ばれる
- 気流:空気の動きのこと。同じ温度でも気流が大きくなるほど体感温度は下がる
- 湿度:空気中の水分量。同じ温度でも湿度によって体感温度は大きく変わり、快適性に影響する
【人由来の要素】
- 着衣量:着衣の断熱・保湿性のことで、着ている服の種類や量を指す
- 代謝量(活動量):身体から発せられる熱量のこと。運動中は体感温度が上がるなど、体感温度に大きな影響を与える
温熱環境が重要視されている理由
日本の住宅の断熱・気密性能の低さは国土交通省によって指摘されていました。その流れもあり、2025年以降は、一般住宅も含めたすべての建築物に高い外皮性能基準(≒高い断熱性能)と少ない一次エネルギー消費量(≒省エネ)が求められるようになりました。
また、温熱環境を評価するための指標として、PMV(予測平均温冷感申告)やSET(標準新有効温度)もあげられます。しかしこれらはあくまでも快適性の指標であり、必ずしも健康的な温熱環境につながるとは判断できません。
上記のような背景から、快適かつ健康的に過ごすために温熱環境が重視されています。既築の建物においても、現在の性能を把握したうえで、温熱環境が整うように改修計画を立てることが重要です。
また、新築で建物を建てる場合は、設計段階から温熱環境を意識した建物づくりが求められます。
温熱環境を整えないデメリット
温熱環境が整っていないと、健康維持や快適性などさまざまな悪影響が生じます。ここでは、具体的にはどのようなデメリットがあるのかを紹介します。
健康維持を阻害する
温熱環境が整っていないと、以下のような健康上のリスクが発生する可能性があります。
- 体温上昇による熱中症リスク(高温)
- 血圧変動による脳梗塞のリスクや循環器への負担(低温)
- カビ、ダニの発生によるアレルギー疾患のリスク(高温・多湿)
- 睡眠の質低下による身体・精神への負担 など
健康の維持や増進の観点から見ても、住まいの温熱環境を整えることは重要です。
参照:環境省_研究結果/住宅の快適性に関するNEB
快適性が損なわれる
温熱環境は、「人が快適に感じる温湿度環境」であるため、温熱環境が整えられていない状態では快適性を確保できません。住宅はもちろんのこと、オフィスや店舗、クリニック、教育施設、福祉施設といった施設においても快適性は重要です。
上述のとおり、温熱環境は健康面に影響を与えます。特に多くの人や長時間利用する建物では、温熱環境による影響が大きくなるため、適切な整備が求められます。
電気代が高くなる
良好な温熱環境が整っている建物は、空調にかかるコストが少なくて済みます。一方、温熱環境が整っていない建物は、それを補うために冷暖房設備の設置や長時間運転による電力消費が大きくなり、電気代といったコストの増加に繋がります。
温熱環境を整えて省エネルギーを実現するためには、建築設計だけでなく、後述する空調設備の設計も重要になります。
快適な温熱環境にするためのポイント(方法)
快適な温熱環境を実現するためには、下記のようなポイントを押さえる必要があります。
- 建物の断熱性・気密性
- 日差しの調整
- 換気・エアコンによる空調設計
それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
建物の断熱性・気密性
温熱環境を整えるための重要な2つの要素として、建物の「断熱性」と「気密性」が挙げられます。
断熱性とは、建物から熱を逃がさずに維持する機能性を指します。断熱性が高ければ、外気温の影響を受けにくく温度を適切に保ちやすくなることから、冷暖房の効果も良くなります。特に屋根・壁・床といった外気に接する部分の断熱性は、温熱環境に直結する重要な要素です。
一方の気密性は、空気の流れから生じる隙間風を低減する性能です。断熱性が高くても気密性が低ければ、閉じ込めた快適な温度を逃がしてしまうため、断熱性と気密性はセットで考える必要があります。
これらの要素は住宅の省エネ性能としても注目されており、改善することで、冷暖房による消費電力を抑える効果も期待できます。
日差しの調整
太陽光は明るさだけでなく熱も室内に運んでくるため、季節によって日差しを調整することも、温熱環境を整えるうえで重要です。
例えば冬場は、太陽の光によってもたらされる熱が室内を暖めてくれるため、日当たりの良い間取りにすることで温熱環境の整備につながります。さらに日中の部屋の明るさにもつながるため、日当たりの良さは住宅設計においても重視されるポイントです。
ただし、夏場は太陽光の熱が室内の温度を高めるため、日当たりが良いと冷暖房の効率を下げてしまうこともあるでしょう。そんなときは、日射熱の侵入を抑制する「日射遮蔽」に注目しましょう。例えば屋外設置型のブラインドを活用すると、太陽光をカットしたまま建物の温熱性をキープできます。
換気・エアコンによる空調設計
空調計画は「換気」と「エアコン」の2つの要素から考えることが大切です。ここでは、それぞれの要素が果たす役割について解説します。
換気
室内の空気を入れ替える換気は、快適な温熱環境を維持するためにも欠かせません。2003年には、建築基準法改正によって室内を1日中換気して空気の入れ替えを行う「24時間換気システム」の設置がすべての建築物で義務化されました。
ただし、換気の際は室内の空気が排出されて外の空気を取り込むため、室内の温度は、必然的に外気の影響を受けてしまいます。
換気性能を維持しながら温熱環境を整えるためには、全熱交換器付きの換気システムの採用がおすすめです。室内の空気に含まれる熱や湿度を取り込む外気に移すことによって、温度と湿度の変化を抑えたまま適切な換気を行えます。
エアコン
エアコンを選定するうえで大切なのが、建物の冷房負荷や暖房負荷を考慮することです。それぞれ冷暖房にかかる負荷であり、負荷が大きいほど能力の高いエアコンが必要になります。
冷房負荷や暖房負荷に対して、エアコンの能力が不足していると、部屋が適切な温度になりにくくなります。温熱環境を整えるためには、冷房負荷や暖房負荷を考慮したうえで十分な性能のエアコンを選びましょう。
また、これまでに紹介した「断熱性・気密性」や「日差し」を調整することでも、冷房負荷や暖房負荷を下げることができます。
ほかにも気流を最適化する設置場所の検討や、センサーによって人の活動量に合わせた送風を行う機種の選定も、温熱環境の整備につながります。
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温熱環境を整えるためには、建物の断熱性・気密性や、季節に合った日差しの調整に加えて、換気やエアコンによる空調設計が重要です。
空調設備の設計は冷房負荷や暖房負荷の計算なども含めて専門的な知識が必要になるため、難易度が高く手間もかかるでしょう。これらの設計や計算は、建物の設計時に意匠設計士の方が対応する場合もありますが、空調設備の専門家に依頼をすることで負荷が軽減できます。
パナソニックでは空調や換気設備の設計に関する相談を無料で実施中です。計画書類の作成だけでなく、換気計算や機種選定、気流の設計、各種シミュレーションといった施主様の満足度を高めるソリューションの提供を行っています。
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また、既築の建物に対しても下記のような「空質空調性能診断」を行っています。
- 壁の断熱状況や窓の種類といった建物の外皮性能の確認
- 換気設備や空調設備、照明などの設備状況の確認
- 温熱環境(温度・湿度・表面温度)、空気環境(CO2濃度)、騒音レベルの確認
いずれも診断内容を通じて現在の建物の性能を把握し、改善点・改善方法のご提案が可能です。気になる方は、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
温熱環境は、人が快適に過ごすために欠かせない要素です。快適な温熱環境を実現するには、建物の断熱性・気密性、日差しの調整、そして換気・エアコンによる空調設計といった複数の要素を考慮する必要があります。
特に空調設備の設計は専門的な知識が必要となるため、知識やリソースを理由に課題を感じるのであれば、専門業者への相談がおすすめです。
パナソニックでは、設計相談から計画書類の作成、さらには既築の建物の性能診断まで、幅広いサービスを提供しています。温熱環境に関するお悩みは、ぜひパナソニックにご相談ください。
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