建物の省エネ対策を行うにあたって、「BELS」や「ZEH」といった制度について知りたいという方も多いでしょう。BELSとZEHは、いずれも省エネ対策を目的とした制度ですが、定義や役割がそれぞれ異なります。
本記事では、BELSとZEHの違いや関連性を解説したうえで、BELSでZEHマークを表示する流れについても紹介します。
■この記事でわかること
- ZEBとZEHの定義
- ZEBとZEHの違い
- ZEBとZEHの共通点
ZEBとZEHの違いとは
ZEBとZEHは、どちらも「年間で消費する一次エネルギー収支をゼロにすることを目指す建築物」という点では共通していますが、いくつかの相違点があります。ここでは、ZEBとZEHを、次の6つの観点から比較していきましょう。
1.対象の建築物
2.推進されている理由
3.ZEB・ZEHの定義
4.実現に活用する技術
5.実現により得られるメリット
6.実現する際の課題
それぞれ見ていきましょう。
【比較.1】対象の建築物
ZEB/ZEH |
ZEB (Net Zero Energy Building) ネット・ゼロ・エネルギー・ビル |
ZEH (Net Zero Energy House) ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス |
対象の建築物 |
非住宅 (複数用途建築物は”非住宅部分”が対象) |
住宅 |
【比較.2】推進されている理由
ZEBとZEHが推進されている理由は同じです。
いずれの制度も、2050年までに温室効果ガスの排出ゼロを目指す「2050年カーボンニュートラルの実現」と、それに向けた中間目標である「2030年度温室効果ガス46%削減(2013年度比)」といった、国が掲げる目標が背景にあります。
CO2をはじめとする温室効果ガスは、発電時に使用する化石燃料の燃焼によって発生するため、化石燃料の使用を減らすことが目標達成のカギとなります。しかし、日本はエネルギー資源が乏しく、海外から輸入する化石燃料に依存しているため、温室効果ガスの削減は容易ではありません。この課題に対処するためには、エネルギー消費自体を減少させる根本的な取り組みが欠かせないのです。
なかでも、全体のエネルギー消費量の3割(※)を占める建築物分野では、省エネの推進が急務となっています。そのため、エネルギーゼロを目指すことを目的としたZEBとZEHの普及が加速しているのです。
国の「エネルギー基本計画」においても、以下のとおりZEBとZEHに関する具体的な指標が掲げられています。
1.2023年度温室効果ガス46%削減(2013年度比)に向けて
2030年度以降に新築される建築物の省エネ性能をZEH・ZEB基準にすることを目指す
2.2050年カーボンニュートラルの実現に向けて
2050年にすべての建築物のストック平均でZEH・ZEB基準の省エネ性能が確保されていることを目指す
※出典:https://www.env.go.jp/content/000234475.pdf
【比較.3】ZEB・ZEHの定義
ZEBとZEHは、年間の一次エネルギー消費量をゼロにすることを目指す建築物ですが、この「ゼロ」の定義は両者で共通しています。
ここでいう「ゼロ」とは、設備・地域・使用用途ごとに算出された標準的な仕様を示す「基準一次エネルギー消費量」を基準にして一次エネルギー消費量を削減できたかを指すものです。また、ZEBやZEHは、必ずしも初めからエネルギー消費量ゼロを達成する必要はなく、削減率に応じた段階的な基準が設けられています。
段階的なアプローチを採用することで、無理なくエネルギー収支ゼロを実現することを目指しています。
■ZEBの定義
(※1)WEBPROにおいて現時点で評価されていない技術
(※2)削減率が30%以上か40%以上は、建物用途による
■ZEHの定義
<戸建住宅>
分類 |
トータルの一次エネルギー消費削減率 |
再生可能エネルギー抜きの一次エネルギー消費削減率 |
外皮の遮断性能 |
ZEH(ゼッチ) |
100%以上 |
20%以上 |
等級5 ※2 |
ZEH+ ※1 |
30%以上 |
等級6 |
|
Nearly ZEH (ニアリーゼッチ) |
75%以上100%未満 |
20%以上 |
等級5 ※2 |
Nearly ZEH+ ※1 |
30%以上 |
等級6 |
|
ZEH Oriented (ゼッチオリエンテッド) |
-(再エネ設備の導入は必須ではない) |
20%以上 |
等級5 ※2 |
※1:ZEH+シリーズは、その他要件として定められた5つの選択要件のうち1つ以上を満たすこと
※2:地域区分8は等級5のηAC値を満たすこと
<集合住宅>
分類 |
回数 |
トータルの一次エネルギー消費削減率 |
再生可能エネルギー抜きの一次エネルギー消費削減率 |
外皮の遮断性能 |
ZEH-M (ゼッチ・マンション) |
3階建以上 |
100%以上 |
20%以上 |
等級5の住戸平均 熱還流率(UA値)を満たすこと ※ |
Nearly ZEH-M (ニアリー・ゼッチ・マンション) |
75%以上100%未満 |
|||
ZEH-M Ready (ゼッチ・マンション・レディ) |
4階建以上5階建以下 |
50%以上75%未満 |
||
ZEH Oriented (ゼッチ・マンション・オリエンテッド) |
6階建以上 |
-(再エネ設備の導入は必須ではない) |
※地域区分8は等級5のηAC値を満たすこと
出典:消費者向け情報 | 環境省「住宅脱炭素NAVI」
【比較.4】実現に活用する技術
ZEBとZEHのどちらも、エネルギー収支ゼロを目指すうえで活用する技術は共通です。いずれも、エネルギーの消費を減らす「省エネ技術」と、エネルギーをつくる「創エネ技術」を活用しています。
省エネ技術はさらに、エネルギー需要そのものを減らす「アクティブ技術」と、エネルギーを効率よく活用する「パッシブ技術」に分けられます。
なお、創エネ技術の導入は、「ZEB Ready」「ZEB Oriented」および「ZEH Oriented」では必須となっていません。
ただし、ZEBとZEHでは建築物の規模や用途が異なるため、設計の難易度に差があります。
とくにZEBが対象とする非住宅は、ZEHが対象とする住宅に比べて規模が大きく、用途ごとに最適な室内環境が変わるため、設計の難易度は高くなるのです。
【比較.5】実現により得られるメリット
ZEBもZEHも実現により得られるメリットはほぼ同じです。具体的なメリットは下表のとおりです。
メリット |
ZEB |
ZEH |
省エネ技術の活用による「光熱費削減」 |
◎ |
◎ |
我慢の省エネではなく、 エネルギーのムダを無くす省エネによる「快適性の向上」 |
◎ |
◎ |
環境配慮行動に対する「企業価値の向上」 |
◎ |
◎ (住宅を販売する側) |
災害時の建物機能の維持による 「事業・生活・地域の継続性の向上」 |
◎ |
◎ (生活に関して) |
上記メリットによる「不動産価値の向上」 |
◎ |
◎ |
補助金の活用による「建築費の負担軽減」 |
◎ |
◎ |
【比較.6】実現する際の課題
ZEBやZEHの実現には、一般的な建築物に比べて初期費用が高くなるという課題があります。
例えば、「ZEB Ready」の基準に合わせて一次エネルギー消費量を50%以上削減する場合、約9~18%(※)のコスト増が見込まれます。しかし、これらのコストは光熱費の削減や、不動産価値の向上に伴う賃料の割増によって回収可能です。補助金の活用により初期投資の負担を軽減することも可能でしょう。
また、企業価値の向上や、災害時における建物機能の維持といった、非金銭的なメリットも考慮することが重要です。
まとめ
ZEBもZEHも、年間のエネルギー収支をゼロにすることを目指す建築物です。大きな違いはエネルギー収支ゼロを目指す対象がZEBは非住宅で、ZEHは住宅であることです。
いずれの制度も、地球温暖化対策として掲げられている「2050年カーボンニュートラル」に向け、全体の約3割を占める建築分野でのエネルギー需要を減らすために普及が進んでいます。省エネによる効果は、光熱費の削減などにも貢献するため、ZEB・ZEH基準の建築物を建てる人・借りる人・住む人のメリットも大きいといえるでしょう。