ZEB Readyとは、省エネ技術を活用して、設計段階での年間の一次エネルギー消費量を50%以上削減した非住宅建築物のことです。
一次エネルギー消費量の削減率に応じて4段階に分けられる「ZEB」の中で、ZEB Readyは3番目に位置し、最も実現しやすいとされています。
本記事では、ZEB Readyの評価基準やメリット、具体的な実現方法などについて、詳しく解説します。
目次
■この記事でわかること
- ZEB Readyのメリット
- ZEB Readyの実現方法
- ZEB Readyの具体例
ZEB Ready(ゼブレディ)とは?
ZEB Readyとは、省エネ技術を活用して、設計段階での年間の一次エネルギー消費量を50%以上削減した非住宅建築物のことです。
この削減率は、建築物の設備や地域、用途に応じて定められた「基準一次エネルギー消費量」が基準となります。
まずは、ZEB Readyの評価基準や、他の段階との違いなどについて、詳しく見ていきましょう。
評価基準
建物がZEB Readyとして認証されるかどうかの評価基準は、定性的および定量的な定義に基づいています。
定性的な定義 |
年間の一次エネルギー消費量が正味0%の建築物を見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化および高効率設備を備えた建築物 |
定量的な定義 |
基準となる一次エネルギー消費量から50%以上の削減を達成している建築物 |
1つのビルに「居住スペース」「事務所」「商業施設」など複数用途が併存する複数用途建築物の場合は、非住宅部分が評価の対象となります。また複数用途建築物では、非住宅部分の延床面積が10,000平方メートル以上であれば、部分的な評価を受けることも可能です。
この場合、評価を受ける部分のエネルギー消費量を50%以上削減することが求められるとともに、評価対象の建物全体で20%のエネルギー消費量削減も実現する必要があります。
引用:ZEBの定義 | 「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」|環境省
「ZEB Ready」以外の段階との違い
ZEB Readyは、ZEBの4段階のうちの一つです。ZEBは一次エネルギー消費量の削減率によって4つの段階に分かれており、ZEB Readyはそのうちの上から3番目に位置します。
ZEB Readyの段階では、創エネ設備の導入は必須ではなく、省エネ対策によるエネルギー消費量の削減が評価されます。
■ZEBの4つの段階
段階 |
評価基準(定量的な定義) |
ZEB(ゼブ) |
「省エネ+創エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を100%以上削減 |
Nearly ZEB(ニアリーゼブ) |
「省エネ+創エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を75%以上削減 |
ZEB Ready(ゼブレディ) |
「省エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を50%以上削減 |
ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド) |
・延べ床面積が10,000平方メートル以上の事務所等、学校、工場等 ≫「省エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を40%以上削減 ・延べ床面積が10,000平方メートル以上のホテル等、病院等、百貨店等、飲食店等、集会所等 ≫「省エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を30%以上削減 |
参照:ZEBの定義 | 環境省「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」
ZEB Readyならではのメリット
ZEB Readyは、ZEBの4段階の中で最も実現しやすいとされる点が大きなメリットです。
一見、エネルギー削減量が少なくハードルが低いZEB Orientedのほうが達成しやすいように思えるかもしれません。しかし、ZEB Orientedはエネルギー消費量の削減に加え、延べ床面積や未評価技術の導入(※)、複数用途建築物における達成基準に条件が設けられています。
その点、ZEB Readyはエネルギー消費量の削減が条件なので達成しやすいのです。
※未評価技術とは?
ZEBの評価(一次エネルギー消費量の計算)において、省エネ効果として正式に認められていない技術
また、ZEB Readyを含むZEB全般には、以下のようなメリットがあります。
- エネルギー消費量の削減による「光熱費の削減」
- 快適な室内空間の実現による「快適性・パフォーマンスの向上」
- 環境配慮行動として社会的に評価されることによる「企業評価の向上」
- 災害などの非常時における「事業・生活・地域の継続性の向上」
- [1]~[4]のメリットによる「不動産価値の向上」
- 補助金の活用による「コスト面での負担軽減」
ZEB全般のメリットや、ZEBに関する概要は以下の記事でより詳しく解説しています。ぜひご一読ください。
ZEB Ready実現の方法
ZEB Readyを達成するには、建物全体の省エネ性能を向上させ、エネルギー消費量を大幅に削減する必要があります。
そのためには、建物の断熱性能を向上させてエネルギーの需要を減らす「パッシブ技術」と、高効率な設備を導入することでエネルギーを効率的に利用する「アクティブ技術」の組み合わせが重要です。
引用:ビルは”ゼロ・エネルギー”の時代へ。|環境省 経済産業省 国土交通省
パッシブ技術の一例として、高性能断熱材や高性能断熱窓を採用することで建物の外皮性能を向上させ、熱の出入りを抑えることが挙げられます。これにより室内の温度変化が少なくなり、空調の負荷が軽減され、エネルギー消費量の削減が可能です。
アクティブ技術では、高効率な設備を導入することでエネルギーを無駄なく活用します。
例えば、全熱交換器を導入すると、室内空気を排出する際に含まれる熱エネルギーを回収し、取り入れる外気に戻すことで、換気による熱損失を最小限に抑えることができます。
アクティブ技術では、建物全体のエネルギー消費量の大部分を占める、空調、換気、照明設備に、高効率機器を導入すると、ZEB Readyの実現に大きく近づくでしょう。
ZEB Ready実現の具体例
ZEB Readyの実現にはパッシブ技術とアクティブ技術を組み合わせることが重要ですが、具体的にどのような技術や設備を導入すれば達成できるのでしょうか。
ここでは、パナソニックが携わった3つの事例を紹介します。
事例①静岡県内の体育館で初めて認証
Gas Oneアリーナ牧之原様は、静岡県内の体育館で初めてZEB Readyを取得されました。
パナソニックでは、省エネ性能に優れた空調設備の導入をサポートいたしました。ご採用いただいたのは、空冷式のため水を必要とせず、水道水やポンプ電力の削減が可能な「一体型GHPチラー」です。
空調設備の導入を含む、その他ZEB Ready認証に向けて取り組まれた設計上のポイントは以下の通りです。
カテゴリ |
対象設備 |
設計ポイント |
省エネ |
外皮 |
外壁や屋根に高性能な断熱材を使用 |
一体型チラー 輻射式パネル |
省エネ性能の高い機械設備の導入による温熱環境の整備 |
|
エネマネ |
BEMS |
空調や照明といった設備の電力使用量などの「見える化」を行い、自動的に制御を行うシステム導入 |
事例②外皮改修せずにZEB化を達成
ZEB Readyの実現にはパッシブ技術とアクティブ技術の組み合わせが重要だとお伝えしましたが、既存建築物の性能によっては大規模な改修を必要としないアクティブ技術だけでのZEB化の達成も可能です。それを実証したのが、パナソニック京都ビルです。
このビルは、2011年に「創エネ・省エネ・エネマネ」の3つのソリューションを取り入れた環境配慮ビルとして建設されました。今回の改修では、事前に「ZEB化可能性調査」を実施したところ、一次エネルギー消費量(BEI値)を基準まで下げられると判断されました。そのため、脱炭素社会へのさらなる進展を目指して省エネ性能に優れた設備のリニューアルを行い、ZEB Readyを実現しました。
具体的なZEB Ready実現の取り組みは以下の通りです。
カテゴリ |
対象設備 |
リニューアルポイント |
省エネ |
照明設備 |
・全館の照明をLEDに交換 ・独自の空間の明るさ感指標「Feu」を活用し、一部オフィスの机上面平均照度を750lxから500lxに低減 ・ダウンサイジング ・明るさセンサと人感センサで自動制御 ・時間帯に合わせた明るさ設定 |
空調設備 |
・高効率空調機の導入 |
|
創エネ・エネマネ・レジリエンス |
V2X |
・急速充電ステーションと蓄電池設備の一体化により、災害時などでも長期間の安定した電力供給が可能 ・駐車場のスペースを有効活用し、太陽光発電 |
かかったコストは通常の改修と同等です。エネルギー消費量の削減によるランニングコスト回収により、約1.5年で回収できると試算されています。
事例③全国的にも珍しいガスを主体としてZEB Readyを実現
岡山ガス株式会社様は、全国的にも珍しい取り組みとして、ガスエネルギーを主体にZEB Readyを実現されました。
一般的にZEBの達成には、すべてのエネルギーを電気にしたほうが達成しやすいとされています。ガスを主体としたZEB認定はほとんど先例がなく、岡山ガス様にとっても非常にチャレンジングな試みでした。
パナソニックでは、プランニングの段階からZEBプランナーとして参画し、設備設計をサポートいたしました。
具体的には、当社のガスヒートポンプエアコンや吸収式冷凍機を導入し、空調や給湯にガスを活用するガスコージェネレーションシステムを構築しました。さらに、ビルディング・オートメーションシステム「WeLBA」によりビル全体の電力・動力・照明設備などを監視・制御し、設備運用の一元管理を通じて省エネと省力化を実現しています。
ZEB Readyに関する疑問
ここでは、ZEB Readyに関してよく寄せられる疑問を、回答とあわせて紹介します。
ZEB Readyの実現には創エネ設備の導入が必要か
ZEB Readyの評価基準には創エネ設備の導入は含まれないため、太陽光発電などの設備を設置しなくても達成可能です。そのため、敷地の制約や予算の都合で創エネ設備の導入が難しい場合でも、ZEB Readyを目指すことができます。
そもそも、ZEBとは年間の一次エネルギー消費量の収支を正味ゼロにすることを目指した建築物のことです。ZEB Readyはその前段階として位置づけられています。
ZEB Readyでは、建物の高断熱化や設備の高効率化を進めることで、省エネルギー性能を大幅に向上させます。そのうえで、建築物の特性や運用条件に応じて創エネ設備を追加し、最終的に正味100%の省エネルギーを目指すのがZEBの考え方です。
ZEB Readyの実現にかかるコストはどれくらいか
ZEB Readyの実現には、通常の建築コストよりも費用がかかるケースが多いです。
具体的には、平成28年の省エネルギー基準相当の建物と比較すると、約9~18%の建築増が試算(※)されており、初期投資としては一定のコスト増が必要となります。
■オフィスビルの建築費増額率(目安)※
■スーパーマーケットの建築費増額率(目安)※
■病院の建築費増額率(目安)※
しかし、この増加率は決して実現が困難な水準ではありません。また、ご紹介した「パナソニック京都ビル」の事例のように通常の改修と変わらないコストでZEB Readyを実現することが可能な場合もあります。
また、光熱費の削減や企業評価、不動産価値の向上といったメリットから得られる、長期的な投資効果も考慮したいところです。
さらに、各種補助金制度の活用により、初期費用の負担を軽減できる可能性もあります。
■ZEB Readyを対象とした令和7年度の補助金制度(一例)
制度名 |
補助額 |
ZEB普及促進に向けた省エネルギー建築物支援事業(予定) |
1/4~2/3(上限3~5億円) |
LCCO2削減型の先導的な新築ZEB支援事業(予定) |
1/3(上限5億円) |
脱炭素先行地域づくり事業(予定) |
原則2/3 |
重点対策加速化事業(予定) |
2/3~1/3(定額) |
まとめ
ZEB Ready(ゼブレディ)とは、設計段階での年間の一次エネルギー消費量が、基準一次エネルギー消費量から50%以下に削減された非住宅建築物のことです。
ZEBの4段階の中でも簡単に実現でき、光熱費の削減や環境配慮行動による企業価値の向上、生産性向上、不動産価値の向上といったZEBのメリットを享受できます。
ZEB Readyの認証には創エネ設備の導入は必須ではなく、パッシブ技術やアクティブ技術による一次エネルギー消費量の削減率を評価基準としています。 とくに空調・換気・照明設備は使用時間や頻度が多く、エネルギー消費量が高くなりやすいため、省エネ化によるエネルギー消費量の削減効果が期待できるのです。
一方で、建築物や部屋の用途、利用人数、活動レベルなどに応じた設備選定は専門知識が必要で手間もかかるため、各設備のプロに任せることをおすすめします。