「ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド)」は、一次エネルギー消費量の削減率に応じて4段階に分けられる「ZEB」のうちの1つです。
延床面積10,000平方メートル以上の非住宅建築物のうち、年間の一次エネルギー消費量を基準値から30~40%以上削減している建物を指します。
本記事では、ZEB Orientedの評価基準やメリット、具体的な事例などについて、包括的に解説します。
目次
■この記事でわかること
- ZEB Orientedの概要
- ZEB Orientedのメリット
- ZEB Orientedの具体例
ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド)とは
「ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド)」とは、設計段階での年間の一次エネルギー消費量を基準より30~40%以上削減した、延床面積10,000平方メートル以上の非住宅建築物のことを指します。
「基準一次エネルギー消費量」とは、建築物の設備や地域、用途ごとに定められている標準的な仕様の一次エネルギー消費量のことです。
ZEBには4つの段階があり、その中でも「ZEB Oriented」は削減率が最も低く、次の段階である「ZEB Ready」達成に向けた建築物として定義されています。
評価基準・要件
上述のとおり、「ZEB Oriented」の評価基準は一次エネルギー消費量の30~40%以上削減ですが、建物の用途により異なります。
建物の用途 |
一次エネルギー消費量の削減率 |
事務所等、学校等、工場等 |
40%以上 |
ホテル等、病院等、百貨店等、飲食店等、集会所等 |
30%以上 |
パッシブ技術 |
エネルギーの需要を減らす技術 ・外皮断熱・日射遮蔽 ・自然採光 ・自然換気 など |
アクティブ技術 |
エネルギーを効率的に無駄なく使う技術 ・高効率空調・高効率換気 ・高効率照明 ・高効率給湯 ・高効率昇降機 など |
■未評価技術(現在のZEBの評価において省エネ効果として含まれない技術)
① CO2 濃度による外気量制御 ② 自然換気システム ③ 空調ポンプ制御の高度化*(VWV、適正容量分割、末端差圧制御、送水圧力設定制御等) ④ 空調ファン制御の高度化*(VAV、適正容量分割等) ⑤ 冷却塔ファン・インバータ制御 ⑥ 照明のゾーニング制御 ⑦ フリークーリング ⑧ デシカント空調システム ⑨ クール・ヒートトレンチシステム *一部は WEB プログラムにおいても評価が行われている。 |
また10,000平方メートル以上の複数用途建築物は、建物全体ではなく部分的な評価も可能ですが、部分的な評価対象での30~40%の削減に加え、建物全体での20%削減も要件として加わります。
評価イメージは以下の通りです。

引用:ZEBの定義 |「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」| 環境省
「ZEB Oriented」以外の段階との違い
「ZEB Oriented」とその他3つの段階(「ZEB Ready」「Nearly ZEB」「ZEB」)との大きな違いは2つあります。
1つ目は、対象となる建築物の範囲に要件がある点です。「ZEB Oriented」は、ZEBの4つの段階の中で唯一、延床面積の要件が設けられており、10,000平方メートル以上の建築物を対象としています。これは、大規模な建築物でも省エネの取り組みが進められるように、新たに設けられた基準です。
2つ目は、「未評価技術」の導入が1つ以上必須であることです。その他3つの段階では未評価技術の導入は必須ではありません。
ZEB Orientedが新設された背景
大規模建築物のZEB化を妨げていた技術面・コスト面の課題をクリアするために、「ZEB Oriented」が新設されました。
もともとZEBは、「ZEB」「Nearly ZEB」「ZEB Ready」の3段階で構成され、建築物の実態や予算に応じて柔軟に省エネを進められるよう設計されていました。しかし、延床面積が大きい建築物では、技術的な課題により最もハードルの低い「ZEB Ready」の基準でさえ達成が難しいケースが多く見られました。
技術的な課題とは、敷地面積の大きいがゆえに起こる次のようなものです。
- パッシブ技術(外皮断熱などのエネルギーの需要を減らす技術)の効果が相対的に小さくなる
≫建築物の規模が大きくなるほど外部環境の影響を受けやすくなり、規模の小さい建物に比べて外皮断熱などの省エネ効果が下がる - 建築物全体で取り組む技術的ハードルが高い
≫空調・換気・照明設備など、室内環境の維持・向上させるための設備が多い - エネルギー消費量が大きく省エネ効果が期待しにくい
≫高層ビルの場合、空調等の熱搬送動力のエネルギー消費量が増大する
さらに、省エネ設備の導入には多額のコストがかかり、建物が大きくなるほど設備投資も大規模になります。
一方で、国の掲げる「2030年度温室効果ガス46%削減(2013年度比)」と「2050年カーボンニュートラル実現」という目標達成のためには、大規模建築物におけるZEB化の推進が不可欠でした。延床面積10,000平方メートル以上の建築物は、新築される非住宅建築物の中でも、エネルギー消費量の約36%を占めるとされています。
こうした背景を踏まえ、大規模建築物においてもZEBの考え方を適用しやすくするために「ZEB Oriented」が新設されました。これにより、従来のZEB基準では対応が難しかった建築物でも、省エネの取り組みを着実に進める環境が整いつつあります。
ZEB Oriented実現にかかるコスト
敷地面積が大きい建築物では、「ZEB Oriented」の実現にかかるコストが大きな検討ポイントになるといえるでしょう。
環境・ 経済産業省・国土交通省が提供している資料(※)によれば、延床面積10,000平方メートル以上のオフィスビルで「ZEB Ready」を達成するには、建築費に対して約10%の追加投資が必要とされています。
さらに、延床面積が28,000平方メートルを超える病院の場合では、達成にかかるコストは約13%増と見積もられています。
「ZEB Ready」は、「ZEB Oriented」よりも高いエネルギー削減率(50%以上)が求められるため、よりハードルの高い基準です。
そのため、「ZEB Oriented」のコスト感を把握するうえで、これらの数値はひとつの参考になるといえるでしょう。
※出典:ビルは”ゼロ・エネルギー”の時代へ。|環境省 経済産業省 国土交通省
ZEB Oriented実現にかかるコストの抑え方
「ZEB Oriented」の実現にはコストがかかりますが、工夫次第では抑えることも可能です。
ここでは、コストの抑え方を3つご紹介します。
エネルギー消費量の多いものから順に省エネに取り組む
建物全体のエネルギー消費量を削減するためには、消費量の多い設備から順に省エネ対策を進めることが有効です。
とくに、空調・換気設備と照明は建物全体のエネルギー消費量の中で大きな割合を占めています。
これらの設備に対する省エネ施策を優先的に実施することで、高い省エネ効果を見込めます。
<省エネ化の一例>
- 空調設備
従来型の空調機器に比べて、エネルギー消費を抑えながら快適な室内環境を保てる「高効率空調機」を導入することで、省エネ効果が期待できます。 - 換気設備
全熱交換器は、屋外から取り入れる新鮮な空気と、室内から排出する空気との間で熱や湿度を効率的に交換する装置です。 これを導入することで、外気を直接取り入れるよりも少ないエネルギーで室内温度を一定に保てるため、冷暖房負荷の軽減につながります。 - 照明設備
蛍光灯や白熱灯に比べて消費電力が少なく、寿命も長いLED照明を採用することで、照明にかかるエネルギーを大幅に削減できます。
上記のような対策に取り組むことで全体の削減効果も高まりやすくなるでしょう。
改修による実現を目指す場合は工事を分散させる
大規模建築物において「ZEB Oriented」の実現を目指す場合、一度に全ての改修を行うと高額な初期投資が必要となります。
段階的に改修を行うことで、一度に大きなコストを負担せずに省エネ技術の導入を進められます。
補助金制度を活用する
補助金制度を活用することで、コスト負担を軽減することができます。
■「ZEB Oriented」を対象とした令和7年度の補助金制度(一例)
制度名 |
補助額 |
ZEB普及促進に向けた省エネルギー建築物支援事業(予定) |
1/4(上限3~5億円) |
LCCO2削減型の先導的な新築ZEB支援事業(予定) |
1/3(上限5億円) |
脱炭素先行地域づくり事業(予定) |
原則2/3 |
重点対策加速化事業(予定) |
2/3~1/3(定額) |
ZEB Oriented実現のメリット
「ZEB Oriented」の実現にはコストがかかるものの、実現によるメリットにも注目すべきです。
- エネルギー消費量の削減による「光熱費の削減」
- 快適な室内空間の実現による「快適性・パフォーマンスの向上」
- 環境配慮行動として社会的に評価されることによる「企業評価の向上」
- 災害などの非常時における「事業・生活・地域の継続性の向上」
- [1]~[4]のメリットによる「不動産価値の向上」
- 補助金の活用による「コスト面での負担軽減」
ZEBのメリットについて詳しくは以下をご覧ください。
ZEB Oriented実現の事例
ここでは、「ZEB Oriented」を実現した2つの事例を紹介します。具体的な省エネ技術も掲載しているため、技術選定や取り組み方の参考にしてみてください。
【事例①】大阪第6地方合同庁舎(仮称)
引用:公共建築物(庁舎)における ZEB 事例集|国土交通省大臣官房官庁営繕部
大阪第6地方合同庁舎(仮称)の延床面積は48,789.41平方メートルです。
以下の図と詳細に示すように、建物内のあらゆる省エネ化を図ることで、44%の削減率を達成しました。
■省エネ技術の一覧
■省エネ技術の詳細※
断熱・建具概要等 |
断熱材厚さ |
・外壁:ウレタンフォーム断熱材 40mm ・屋根:ポリスチレンフォーム断熱材 35mm |
主な建具仕様 |
Low-E 複層ガラス(6mm+空気層 10mm+6mm 等) |
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その他 |
・梁・柱による庇・垂直ルーバー効果 ・エアバリア窓システム(建物四隅ビューコーナー部) ・ライトシェルフ、エコボイド(太陽光追尾採光システム) |
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空調 |
空調システム |
大温度差送水システム(10℃差) |
中央熱源 |
・空気熱源ヒートポンプユニット(モジュール型) ≫冷却 720kW・加熱 720kW×2 台(4モジュール×2台) ・吸収冷温水機ユニット ≫冷却 352kW・加熱 352kW×3 台 |
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空調機 |
外気処理空調機(coil to coil 再熱方式、全熱交換器付)、各階空調機 (エントランス系統、2F 食堂系統などは全熱交換器付) |
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個別空調 |
空冷パッケージエアコン、全熱交換ユニット |
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制御 |
変風量制御(VAV)/変流量制御(VWV)/熱源・ポンプ運転台数制御/エアバリア制御/外気冷房制御/予冷予熱時外気取入れ停止/外気取入れ量制御(CO2 制御)/ナイトパージ/給気温度設定値最適化制御(ゼロエナジーバンド制御)/クール・ウォームピット外気取入切換制御 |
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換気 |
換気制御 |
・温度制御:(電気室、MDF 室、EV 機械室) ・CO 制御:(地下駐車場、来庁者駐車場) ・自然換気制御:(エコボイド利用排気ファン制御) |
照明 |
光源 |
LED 照明 |
照明制御 |
・人感検知制御 点滅方式(トイレ、湯沸かし室、更衣室、書庫、倉庫、廊下、階段室) ・明るさ検知制御(事務室、会議室) ・タイムスケジュール制御 点滅方式(ロビー)、減光方式(事務室、会議室) |
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給湯 |
給湯器 |
潜熱回収型給湯器 |
昇降機 |
昇降機 |
・VVVF 電力回生あり(中層用及び高層用の計8台) ・VVVF 電力回生なし(低層用及び非常用) |
創エネ |
再エネ |
太陽光発電60 kW(うち約 12 kW は 14F 南側壁面に設置) |
※下線は未評価技術
※出典:公共建築物(庁舎)における ZEB 事例集|国土交通省大臣官房官庁営繕部
【事例②】三井ショッピングパーク ららぽーと門真・三井アウトレットパーク大阪門真
次にご紹介するのは、1階と3階に「ららぽーと門真」、2階に「三井アウトレットパーク 大阪門真」を構えた大規模2業態複合型商業施設です。
高効率空調設備や熱源機の導入、エネルギーの使用状況に応じた空調制御により、一次エネルギー消費量の30%削減を達成し、「ZEB Oriented」を実現しました。
空調や熱源機は、パナソニックの商品をご採用いただきました。
「ZEB Oriented」実現に貢献する、空調や熱源機の具体的な商品は以下のとおりです。
空調 |
中央熱源方式 |
・ナチュラルチラー|吸収冷温水機 節電型ナチュラルチラーPR型 ・ナチュラルチラー|廃熱利用機 CP型ジェネリンク |
個別熱源方式 |
・GHP|マルチ ・GHP|Wマルチ ・GHP|3WAYマルチ ・GHP|電源自立型空調GHP エクセルプラス ・パッケージエアコン |
まとめ
「ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド)」とは、延床面積10,000平方メートル以上の非住宅建築物のうち、年間の一次エネルギー消費量を基準値から30~40%以上削減している建物に与えられる評価です。「ZEB Oriented」を実現することで、光熱費の削減や快適性の向上、企業評価の向上、不動産価値の向上といったメリットがあります。
従来のZEB基準は、大規模な建築物では技術的・経済的なハードルが高く、導入が難しいケースも多くありました。「ZEB Oriented」はその課題を解決し、ZEB化の第一歩を進められるよう設計されています。
今後、「2030年度温室効果ガス46%削減(2013年度比)」と「2050年カーボンニュートラル実現」に向けて、環境に配慮した取り組みがより一層求められます。「ZEB Oriented」の実現は企業の社会的責任を果たし、持続可能な社会の実現に貢献する選択肢となるでしょう。