近年、地球温暖化対策として建築物の省エネルギー化が求められるようになっています。
その一つの指標として注目されているのが、快適性と省エネを両立するZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)です。
ZEBは、省エネと創エネによって年間のエネルギー消費量を実質ゼロにすることを目指した非住宅建築物を指します。2030年以降の新築建築物では、ZEB基準への適合が義務づけられる見通しで、建築業界ではその対応が急務となっています。
本記事では、ZEBの概要やメリット、具体的な進め方などについて、詳しく解説します。
■この記事でわかること
- ZEBとは何か
- ZEB化のメリット
- ZEB化を進める手順
ZEBとは
ZEB(ゼブ)とは、快適な室内環境を維持しながら、省エネと創エネによって年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロにすることを目指した非住宅建築物(ビルや病院、工場、学校など)のことです。正式名称は「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(Net Zero Energy Building)」といいます。
*基準値に対する一次エネルギー消費量削減率
ZEBには一次エネルギーの削減率や延床面積に応じて「ZEB」「Nearly ZEB」「ZEB Ready」「ZEB Oriented」の4段階があります。広義のZEBはこれらすべてを含む概念です。
■ZEBの4段階
『ZEB』(ゼブ、カギゼブ) |
「省エネ+創エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を100%以上削減 |
Nearly ZEB (ニアリーゼブ) |
「省エネ+創エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を75%以上削減 |
ZEB Ready(ゼブレディ) |
「省エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を50%以上削減 |
ZEB Oriented (ゼブオリエンテッド) |
・延べ床面積が10,000平方メートル以上の事務所等、学校、工場等 ≫「省エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を40%以上削減 ・延べ床面積が10,000平方メートル以上のホテル等、病院等、百貨店等、飲食店等、集会所等 ≫「省エネ」で、年間の一次エネルギー消費量を30%以上削減 |
参照:ZEBの定義 | 環境省「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」
■ZEBの段階を表した図
一方、狭義のZEBは、省エネと創エネの組み合わせで年間の一次エネルギー消費量を100%以上削減する建築物を意味します。
ZEBが注目されている背景
ZEBが注目を集める背景には、政府が定める「エネルギー基本計画」における以下の2つの目標設定が関係しています。
- 2030年度の目標
温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減するため、2030年以降に新築される建築物の省エネ水準をZEH・ZEB基準とすることを目指す - 2050年度の目標
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、建築物のストック平均の省エネ性能がZEH・ZEB基準を確保していることを目指す
建築分野は、日本の最終エネルギー消費量の約3割(※)を占めています。そのため、これらの目標の最終的な目的である脱炭素社会を実現するためには、建築分野のエネルギー消費の削減が必要不可欠です。こうした背景のなかで、ZEB化の推進が進められています。
ZEHとの違い
ZEBによく似た言葉に、ZEH(ゼッチ)があります。ZEHは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(Net Zero Energy House)」の略称で、ZEBの住宅版に相当します。
ZEHもZEBと同様に、省エネと創エネによって年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指しますが、その対象が戸建住宅や集合住宅といった居住用建築物である点が相違点です。
達成レベルについても、ZEBと同じように段階的な基準が設けられています。
ZEBとZEHの違いについて、より詳しい解説は以下の記事をご覧ください。
ZEBの判定基準
ZEB基準への適合は、WEBプログラム(エネルギー消費性能計算プログラム)を使って判定します。
まず、建築物の基本情報(所在地域や各部屋の用途、面積など)を入力し、「基準一次エネルギー消費量」を算出。これはその建物の標準的な仕様でのエネルギー消費量です。
次に、設計段階で予定している設備の仕様や建物の詳細情報を入力し、「設計一次エネルギー消費量」を算出します。こちらはその設計でのエネルギー消費量のことです。
この「設計一次エネルギー消費量」を「基準一次エネルギー消費量」で割った値をもとに、省エネ達成率(一次エネルギー消費量の削減量:BEI)が判定され、ZEBの基準を満たしているかが評価されます。
BEIについては、以下の記事で関連法令とあわせてより詳しく解説しています。
ZEB化のメリット
ZEB化には、建物のオーナーやテナントにとって、以下のようなメリットがあります。
- 光熱費の削減
- 快適性・パフォーマンスの向上
- 企業評価の向上
- 非常時の事業・生活・地域の継続性の向上
- 不動産価値の向上
- 補助金活用による負担の軽減
各メリットについて、詳しく解説します。
光熱費の削減
ZEB化すれば、建物のエネルギー消費量を大幅に減らせるため、光熱費の節約が可能です。
環境省の試算によると、延床面積1万平方メートル程度の事務所ビルを「ZEB Ready」の水準にした場合、標準的なビルと比べて光熱費を40~50%削減できるとされています。例えば、年間1,000万円の光熱費がかかっているビルなら、ZEB化で年500~600万円もの削減効果が見込めます。太陽光発電などの創エネ設備を導入すれば、光熱費のさらなる削減も期待できるでしょう。
ただし、テナントビルではその恩恵はテナント側に還元されるため、オーナー側の直接的なメリットとはなりにくい面もあります。オーナーが自ら使用しない建物のZEB化を進める際は、ほかの効果も考慮する必要があるでしょう。
一方で、テナント側にとっては光熱費の大幅な削減は経済的なメリットとなるため、入居物件としての魅力が高まります。
※出典:ZEB化のメリット | 「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」|環境省
快適性・パフォーマンスの向上
しかし、ZEB化は単なる省エネ化ではなく、建物の断熱性能を高め、高効率な設備を導入することによって、快適性を損なわずにエネルギー消費量を抑制することを目指します。
快適でストレスのない室内環境は、社員のモチベーションアップや業務効率の改善につながり、企業の生産性向上にも寄与します。
この効果は、光熱費の削減によるコストメリット以上に大きいともいわれています。(※)
※出典:ZEB化のメリット | 「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」|環境省
企業評価の向上
環境配慮の取り組みを推進する企業が増えるなか、ZEB化は地球温暖化対策の一環としてアピール効果の高い取り組みといえるでしょう。
SDGsへの対応など、環境に配慮した企業姿勢は、社会的な評価の向上につながります。また、環境意識の高い市場での競争優位性が働き、新規市場への参入や成長機会の拡大にもつながることが期待できます。
今や環境配慮は、持続的な企業成長を支える重要な経営戦略の一つです。
非常時の事業・生活・地域の継続性の向上
災害時など、非常時に建物の機能を維持するためには、エネルギー供給が欠かせません。
ZEB化した建築物は、太陽光発電などの創エネ設備を備えている場合、非常時でも一定の電力を自給し、事業の継続が可能です。
また、創エネ設備がなくても、建物の断熱性能や設備効率が高ければ、建物機能の維持に必要なエネルギー消費自体を抑えられるので、非常時でも建物の機能を維持しやすくなります。
このようなZEB建築は、入居する企業や従業員、地域住民の安全・安心につながり、地域の防災拠点としての役割も期待できるでしょう。
不動産価値の向上
ZEBのような高いエネルギー性能を有する建築物は、不動産価値が高まる傾向にあります。
環境省の調査(※)では、東京23区のオフィスビルのうち、環境認証を取得しているビルは、新規成約賃料に好影響を与えていることが確認されています。
ZEB化による光熱費の削減や、快適性、環境配慮、災害時における事業継続性は、テナントからの評価を高め、賃料増につながる要因です。これにより、オーナー側もとっても初期投資の回収をしやすくなります。
※出典:ZEB化のメリット | 「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」|環境省
補助金活用による負担の軽減
国は、2050年カーボンニュートラル達成に向けてZEB化を強力に推進しており、その一環として補助金制度を設けています。これを活用すれば、ZEBのメリットを享受しつつ、コスト面の負担を大幅に軽減することができます。
例えば、令和7年度に実施予定の「ZEB普及促進に向けた省エネルギー建築物支援事業」では、補助率2/3~1/4(上限3~5億円)の補助が受けられます。
出典:建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業(一部農林水産省・経済産業省・国土交通省連携
補助金制度の詳細は、以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
ZEB化を実現する方法
ZEB化の実現には「エネルギーを減らす技術(省エネ技術)」と「エネルギーを作る技術(創エネ技術)」の組み合わせが重要になります。
また、省エネ技術はさらに、建物の構造的な工夫による「パッシブ技術」と、設備の効率化などによる「アクティブ技術」に分類されます。
ZEB化にあたっては、以下のステップでの検討が重要です。
- パッシブ技術でエネルギーの需要を減らす
- パッシブ技術で減らせない需要について、アクティブ技術でエネルギーのムダを無くす
- アクティブ技術で必要なエネルギーを創エネ技術で賄う
それぞれの具体的な取り組みを詳しく見ていきましょう。
パッシブ技術
パッシブ技術とは、建物の断熱性能を高めることで熱の出入りを抑え、エネルギー使用量を減らす手法です。
具体的には、以下のような方法が挙げられます。
外皮断熱 |
室内と屋外の境界となる外皮部分(屋根、壁、床等)に熱が伝わりにくい断熱材を使用することで、熱の出入りを少なくする技術 |
高性能窓 |
複層ガラスのような断熱性の高い窓を採用することで、熱の出入りを少なくする技術 |
日射遮蔽 |
屋根、外壁、窓から侵入する日射をブラインドやルーバー、庇、高性能ガラス等により遮蔽することで、冷房負荷を低減する技術 |
自然採光 |
自然光を取り入れ、人工照明の利用を減らす技術 |
既築の場合、外皮断熱の改修が難しいこともありますが、その場合は開口部の断熱強化を最優先に、屋根、窓の順で断熱性能を高めていくことで、ZEB化が可能です。
アクティブ技術
アクティブ技術は、高効率な設備機器の導入によって、エネルギー効率を高める手法です。 高効率の空調、換気、照明、給湯、昇降機など、建物で使用するさまざまな設備を最新のものに更新することで、ムダなくエネルギーを活用することができます。
とくに空調・換気・照明設備は、建物全体のエネルギー消費量の大部分を占めるため、これらの高効率機器の導入よるエネルギー消費量の削減効果は大きいといえます。
例えば換気設備であれば、全熱交換器の導入が効果的です。
全熱交換器は、排気中の熱エネルギーを回収して給気に戻すことで、空調負荷を低減する装置です。排気熱を有効利用することで換気に伴う熱ロスを最小化でき、同時に室内の温度変化も抑えられるので、快適性の向上にもつながります。
アクティブ技術は、エネルギー消費量を最適化しつつ、快適な室内環境も実現するために不可欠な要素です。ただし、日々進化する高効率機器の情報をキャッチアップし、最適なものを選定するのは容易ではありません。
パナソニックでは、ZEB化に向けた設備設計を、計画立案から機器選定まで幅広くサポートしています。最新の設備情報をご提供しながら、お客様に最適なご提案をいたしますので、お悩みの際はぜひご相談ください。
創エネ技術
創エネ技術とは、太陽光発電システムに代表される、再生可能エネルギーを活用した発電技術のことです。
化石燃料に比べてCO2排出量が格段に少なく、地球温暖化防止に貢献することから、ZEB化に欠かせない要素の一つとなっています。
発電した電力は建物内で消費することで、光熱費の一部を賄うことができます。また、災害時の非常用電源としても活用が可能です。
ZEB化実現の進め方・流れ
ZEB化の進め方は主に以下の2パターンが考えられ、「新築でZEB化を実施する場合」と「既築(改修)でZEB化を検討する場合」で進め方が異なります。
新築でZEB化を実施する場合 |
基本設計段階でZEBへの適合前提で進める |
既築(改修)でZEB化を検討する場合 |
建築の目的や用途、予算、スケジュールと、それらの優先順位を整理したうえで、ZEBプランナーに相談しZEB化可能性調査を行う |
実際にZEB化を進める際には、新築・既築を問わず、基本設計段階での綿密な計画が重要です。
設計が完了した後にZEB基準を満たしていないことが判明すると、再計算や再設計の手間が発生するだけでなく、スケジュールの遅延による影響も大きくなります。こうしたトラブルを防ぐためには、基本設計段階からZEB化に必要な基準を考慮し、必要に応じて外部の専門家やコンサルタントのサポートを確保することが求められます。
ここからは、環境省が想定しているZEB化実現までのプロセスについて、新築・既築それぞれの場合に分けて見ていきましょう。なお、いずれの場合も補助金制度を活用するケースを想定しています。
新築の場合
■1年目
- ZEBの基本設計(4月~9月)
- ZEB設計の事業者公募(9月~10月)
- ZEB詳細設計(10月~1月)
- ZEB認証手続き(1月~3月)
■2年目
5.ZEB補助事業申請(4月~7月)
6.施工業者の公募・入札等(7月~8月)
7.施工(10月~1月)
8.竣工検査(1月~2月)
9.補助事業の実績報告書提出(2月~3月)
出典:ZEB化実現までの流れ | 「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」|環境省
既築の場合
■1年目
- ZEB化可能性調査
■2年目
1.設計仕様書の作成(4月~7月)
2.ZEB設計の事業者公募(7月~8月)
3.ZEB詳細設計(8月~1月)
4.ZEB認証手続き(1月~3月)
■3年目
5.ZEB補助事業申請(4月~7月)
6.施工業者の公募・入札等(7月~8月)
7.施工(10月~1月)
8.竣工検査(1月~2月)
9.補助事業の実績報告書提出(2月~3月)
ZEB化に関するよくある疑問
ここでは、ZEB化の取り組みを進めるうえでよくある質問とその回答を、Q&A方式で紹介します。
ZEBの評価は「設計段階」か「運用段階」か
ZEB基準への適合評価は設計段階で行われ、実際の運用段階における使用状況の変動は考慮されません。
つまり、竣工後の利用者の使い方次第でエネルギー消費量が増減しても、ZEBの認証には影響しないということです。
創エネの売電分は省エネ達成率にどう反映されるか
ZEBの省エネ達成率の算定には、太陽光発電などによる創エネ量も含まれます。
敷地内で消費する電力だけでなく、余剰分として売電する電力も、基準一次エネルギー消費量からの削減分としてカウントされるのです。
ただし、売電分のすべてを対象とするのではなく、あくまで自家消費の余剰分に限られます。
ZEB化にあたってコストはどのくらいかかるか
ZEB化にかかるコストは、建築物の規模や仕様によって大きく異なりますが、環境省(※)のデータによると、オフィスビルを「ZEB Ready」の水準で建築する場合、通常よりも約10%程度の追加コストが必要とされています。
初期投資は増えますが、光熱費の大幅な削減、企業評価の向上、不動産価値の向上といった長期的なメリットを考慮すると、コスト増を補う効果が期待できます。また、国や自治体の補助金制度を活用することで、初期投資の負担を軽減することも可能です。
※出典:ビルは”ゼロ・エネルギー”の時代へ。|環境省
すでに省エネ性能を向上させた設備も評価に含まれるか
ZEBの評価では、新たな改修や設備の更新だけでなく、すでに省エネ性能を向上させた過去の改修や設備も評価対象に含まれます。
そのため、これまでに行った省エネ対策の取り組みが無駄になることはなく、ZEB化を目指す際には過去の実績も加算されることで、よりスムーズな評価と計画の推進が可能です。既存設備の有効活用を考慮しながら、効率的なZEB化に取り組むことが重要です。
ZEB基準の建築物であることを表示することはできるか
建築物が ZEB基準を満たしていることは、第三者機関による「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」の認証を取得し、その旨を表示することができます。
BELSでは、建物の省エネ性能を5段階の星印で表示しますが、ZEB基準に達している場合は、星印に加えて「ZEB」の文字が併記されます。
これにより、テナントをはじめとするステークホルダーに対し、建物の省エネ性や環境性能を客観的にアピールすることが可能になります。ZEB表示は、不動産価値の向上や企業の環境配慮姿勢の訴求につながるため、オーナーにとっても大きなメリットとなるでしょう。
BELSは、以下の記事でより詳しく解説しています。
まとめ
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、快適な室内環境を維持しながら、建物の省エネ・創エネを組み合わせて年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロにすることを目指した非住宅建築物です。
ZEB化は、建築物のオーナーやテナントに、光熱費の削減、快適性やパフォーマンスの向上、不動産価値の向上といった、さまざまなメリットをもたらします。また、近年の環境意識の高まりにより、ZEB化は企業の評価向上にも寄与します。
一方で、2030年以降には新築建築物の省エネ基準がZEB基準へと移行することが決まっており、設計士さんの負担が増加することが予想されます。ZEB基準を満たせない場合、着工や使用開始が遅れるリスクもあるため、基本設計段階から綿密な計画を立てることが必要不可欠です。
特に、エネルギー消費量の大きい空調・換気・照明設備の最適化を図る「アクティブ技術」は、ZEB化を成功させるための重要な要素であり、設備設計の段階で専門的な知識と適切なシステム選定が求められます。
ZEB化実現に向けた設計は、順序立てて効率よく行いましょう。