省エネ計算は、建築物の省エネルギー性能を評価するために欠かせないプロセスです。近年、環境問題への意識の高まりや法規制の強化により、その重要性はますます増しています。
本記事では、省エネ計算の重要性や、建物の用途や種類ごとの具体的な算出方法について詳しく解説します。これから新築や改修を検討している方、建築関係者の方々は、ぜひ参考にしてください。
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省エネ計算の重要性
省エネ計算の重要性が高まっている背景には、地球温暖化対策や持続可能な社会の実現という世界的な課題があります。
日本では、建築物省エネ法によって省エネ基準への適合義務が課されています。この法律は、建築物のエネルギー消費性能の向上を図ることが目的です。
2025年4月(予定)には、基準適合義務の対象がさらに拡大され、これまで説明義務や届出義務の対象だった小規模非住宅・住宅も対象となります。
つまり、住宅・非住宅を問わず、すべての建築物(10㎡以下のものを除く ※想定)で省エネ性能向上の対応が求められるようになるのです。これに伴い、省エネ計算の重要性はますます高まっています。
省エネ計算のやり方
省エネ計算は、建物の用途によって算出方法が異なります。大きく分けて、住宅(居住用)と非住宅(店舗や事務所、工場等の居住以外)の2つのカテゴリーがあります。
住宅の場合、「外皮基準」と「一次エネルギー消費量基準」の2つの基準に適合しなければなりません。そのため、それぞれの性能を個別に算出することになります。
一方、非住宅の場合は「一次エネルギー消費量基準」のみが対象です。しかし、一次エネルギー消費量の計算には外皮性能の計算が必要となるため、間接的には外皮性能基準も審査の対象となります。
適合基準 |
外皮基準(PAL) ≫建築で基準に対応 |
一次エネルギー消費量基準 (BEI) ≫設備で基準に対応 |
対象 |
住宅 ※非住宅は基準の適合義務はないが、一次エネルギー消費量基準の算出に外皮性能の計算が必要 |
住宅・非住宅 |
計算項目 |
外⽪平均熱貫流率 冷房期の平均⽇射熱取得率 |
冷暖房設備 換気設備 給湯設備 照明設備 太陽光発電設備 |
なお、「住宅」でも"住宅部分を有する建物"によって、住宅部分と非住宅部分で計算が変わります。
■住宅部分を有する建物
- 一戸建て住宅
- 共同住宅
- 複合建築物
一戸建て住宅はすべてが居住する用途であるため、全体が住宅部分です。しかし、共同住宅には共用部分が、複合建築物(例えばスーパーや事務所)には共用部分や非住宅用途の部分が存在するため、住宅部分と非住宅部分が混在することになります。
そのため、住宅部分は一次エネルギー消費量性能と外皮性能を、住宅部分を有する建物の非住宅部分は一次エネルギー消費量性能のみを算出し、それぞれの結果を集計します。
建物の種類 |
算出が必要な基準 |
|||
一次エネルギー消費量基準 |
外皮基準 |
|||
一戸建て住宅 |
〇 |
〇 |
||
共同住宅 |
住宅部分 |
〇 |
〇 |
|
非住宅部分 (共用部分) |
〇 |
‐ |
||
複合建築物 |
住宅 |
住宅部分 |
〇 |
〇 |
非住宅部分 (共用部分) |
〇 |
‐ |
||
非住宅 |
非住宅用途 |
〇 |
‐ |
|
非住宅用途の共用部分 |
それでは、外皮性能と一次エネルギー消費量の概要と算出方法について、さらに詳しく解説していきましょう。
外皮基準(PAL)の概要・算出方法
外皮基準は、建物の断熱性能を評価する指標です。断熱性能に優れた建物は、室内の温度を一定に保ちやすく、冷暖房にかかるエネルギーも少なくて済むため、省エネ性能も高い建物だといえます。
なお外皮とは、「天井または屋根・外壁または基礎壁・開口部・床」といった、建物内部の居住空間と外部の環境を隔てる熱的境界となる部分のことです。
「天井または屋根」については、天井裏や小屋裏に換気口がなく、外気と通じていない場合は屋根が外皮となり、天井裏に換気口がある場合は天井を外皮として計算します。「外壁または基礎壁」については、基礎の立上がり部分が基礎断熱の場合に限り、その基礎壁を外皮として計算します。
また、地盤面が熱的境界となる土間床などがある場合は、その地盤面の水平部分の面積を対象とします。詳しくは以下の図をご覧ください。
▽一戸建て住宅の場合の例
引用:住宅の省エネルギー基準と評価方法2024 【戸建住宅版】|国土交通省
外皮性能の評価には、「外皮平均熱貫流率(UA値)」と「冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)」の2つの基準があり、それぞれ算出が必要です。これらの値は、地域区分に応じた基準以下にしなければなりません。
- 外皮平均熱貫流率(UA値)
室内から外皮を通して室外へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値
- 冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)
冷房期に外皮から侵入する熱を外皮全体で平均した値
算出方法は次の図の通りです。
引用:省エネ基準適合義務化制度解説|国土交通省
以下のツールでは、省エネ計算と地域区分ごとの基準値を確認することができます。
参考:令和4年11月7日に共同住宅等の住戸間の 熱損失の取扱いが合理化されました。
外皮平均熱貫流率(UA値)と、冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)の2つの算出方法について、さらに詳しく見ていきましょう。外⽪平均熱貫流率の算出方法
外皮平均熱貫流率(UA値)は、建物全体の断熱性能を表す指標です。この値は、外皮の部分から逃げていく「外皮熱損失量」を「総外皮面積」で割ることで算出されます。
外皮平均熱貫流率(UA値)=外皮熱損失量 ÷ 総外皮面積
外皮熱損失量は、外皮の部位ごとに、部位ごとの「面積・長さ」「熱貫流率」「温度差係数」の3つを掛けて総和します。
引用:住宅の省エネルギー基準と評価方法2024 【戸建住宅版】|国土交通省
冷房期の平均⽇射熱取得率の算出方法
平均日射熱取得率(ηAC値)は、建物に入ってくる日射熱の量を評価する指標です。この値は、外皮の部分から室内に入る「総日射取得量」を「総外皮表面積」で割ったのち、100を掛けて算出します。
冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)=総日射取得量 ÷ 総外皮面積 × 100
総日射取得量は、外皮の部位ごとに「0.034」と、部位ごとの「面積・長さ」「熱貫流率・垂直面日射取得率」「外気側表面に応じた係数」「日よけ効果係数・取得日射熱補正係数」「方位係数」の6つを掛けて総和します。
引用:住宅の省エネルギー基準と評価方法2024 【戸建住宅版】|国土交通省
なお、外皮性能基準の適合判定においては冷房期の平均日射熱取得率のみを使用しますが、一次エネルギー消費量の計算では暖房期の平均日射熱取得率の算定も必要になります。冷房期と暖房期いずれも計算式は同じです。
一次エネルギー消費量基準(BEI)の概要・算出方法
一次エネルギー消費量基準は、建物で使用される設備のエネルギー消費量を評価する基準です。計算対象となる設備は以下の通りです。
- 暖房設備
- 冷房設備
- 換気設備
- 給湯設備
- 照明設備
- その他の設備
それぞれの設備ごとのエネルギー消費量と、太陽光発電設備による削減量を計算します。
設計一次エネルギー消費量=
各設備機器のエネルギー消費量(暖房設備+冷房設備+換気設備+給湯設備+照明設備)-エネルギー利⽤効率化設備(太陽光発電設備等)
太陽光発電設備はエネルギーを作り出す設備機器であり、一次エネルギー消費量の削減に寄与するため、エネルギー消費量を減らすことが可能です。このため、建物で使用する設備のエネルギー消費量から減ずることができます。
一次エネルギー消費量性能は、実際に建てる建築物の「設計一次エネルギー消費量」を、地域や建物用となどで定めた「基準一次エネルギー消費量」で割った値が、基準値よりも低くならなければなりません。基準値は2024年3月までは建物用途に関係なく「1.0」でしたが、省エネ基準法の改正に伴い、2024年4月より建物用途に応じた基準値が定められました。
引用:省エネ基準適合義務化制度解説|国土交通省
また上述のとおり、一次エネルギー消費量の算出には外皮性能の計算も必要となります。これは、建築物の断熱性能が暖冷房負荷に大きく影響するためです。高い断熱性能は、冷暖房にかかるエネルギーを削減し、全体的なエネルギー消費量の低減につながります。
住宅・非住宅ごとの省エネ計算の方法
省エネ計算は、国土交通省が提供する専用のWebプログラムあるいは手計算を用いて行われ、いくつか評価方法の種類があります。
住宅と非住宅ごとに、それぞれの評価方法を見ていきましょう。
住宅
引用:住宅の省エネルギー基準と評価方法2024 【戸建住宅版】|国土交通省
住宅(木造戸建て住宅)の省エネ計算に用いられる評価方法には、以下の4つがあります。
- 標準計算ルート
- 簡易計算ルート(2025年4月で廃止)
- モデル住宅法(2025年4月で廃止)
- 仕様ルート
このうち、主に用いられるのは標準計算ルートと簡易計算ルートの2つです。
モデル住宅法は、パソコンなどを用いずに計算できる点がメリットですが、木造戸建てにしか適用できない、太陽光発電による削減効果を計算できない、計算結果は説明義務制度以外に使用できないといった制限があります。
仕様ルートは設備仕様の適用範囲が狭いため、こちらもあまり用いられません。
このため、住宅の省エネ計算においては、各種制度の申請に対応している標準計算ルートと簡易計算ルートが用いられます。ただし、簡易計算ルートについては2025年4月に廃止されるため、標準計算ルートへの理解を深めておきましょう。
非住宅
非住宅の省エネ計算は、用途や使用する設備などの幅が広いため、建築物や部屋ごとに応じた設計・設備の選定・計算が必要です。非住宅モデルの省エネ計算方法には、以下の3つがあります。
- 標準入力法
- モデル建物法
- 小規模モデル建物法 ※2025年4月に廃止し、省エネ適判に対応した「モデル建物法(小規模版)」に改編
標準入力法は詳細な入力が可能で、より正確な計算結果が得られます。一般的には他2つの計算方法よりも省エネ基準の結果が高くなるとされていますが、部屋単位で計算を行うため、手間もコストもかかります。
モデル建物法は比較的簡易的で、入力項目が少なく短時間で結果が得られます。一般的な省エネ適合義務への対応であれば、この計算方法が採用されます。
小規模版モデル建物法は非常に簡易な計算方法で、300㎡未満の小規模な非住宅建築物に適用できます。
非住宅の省エネ計算について、より詳しい情報は以下の記事をご参照ください。
まとめ
省エネ計算は、建築物の環境性能を評価し、エネルギー効率の高い建物を実現するために欠かせないプロセスです。2025年4月以降は、基準適合義務の対象がさらに拡大される予定なので、今後はほぼすべての建築物で省エネ性能向上の対応が必要になります。
省エネ計算は以下のプログラムから算出が可能です。
ただし、スケジュールの面でも難易度の面でも、設計士さん自身で対応するハードルは高いでしょう。資料の理解に時間がかかったり、計算ミスによる審査不通過のリスクがあったりと、課題も多いのが現状です。特に非住宅の場合、用途や設備の多様性への対応が難しい点も挙げられます。
こうした作業は各分野の専門家へのサポートの依頼をおすすめします。専門家のサポートを受けることで、設計士さんはコア業務に注力でき、より質の高い設計が可能となります。また、将来的な人手不足に備えて、各分野の専門家と連携関係を構築しておくと安心です。
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